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込山洋一

ルート66を走る(その3)

11月11日午前10時19分、ニューメキシコ州アルバカーキから530キロの町アリゾナ州フラッグスタッフに、僕らは無事に到着した。ロサンゼルスを出発してから6日目。
僕は小学生の頃から自転車が大好きで、その時代その環境で許される自転車旅を重ねてきたけれど、4日間で500キロの距離(1日平均125キロ)を走れたこと、とくに3日目に160キロの距離を1日で走り切れたことは大きな自信になった。30歳の頃の自分に負けていないと思う。
30年アメリカに暮らしていて新たな発見もあった。
往路のアムトラックで乗り合わせた乗客との交流から、宗教上の理由で飛行機を使わない人たちの存在を知った。男性はみなアゴにたっぷりの髭をたくわえていて、その風貌といい日常生活でなかなか接する機会がない。
その一人、夕食をともにした28歳のミッチェルは、背丈より大きな十字架を背負って、1年がかりでアメリカ大陸を歩いて横断して、その帰路だという。野宿や教会、信者の家に泊まりながら旅を続けたというが、冬はマイナスを切る気温に凍え、夏は40℃を超えるアスファルトの道で倒れそうになる日もあっただろう。何を思い、どんな旅をしてきたのかもっと聴いてみたかった。
もうひとつは自らの身を守ることについての考え方。
幸いにも銃と無縁の生活をしてきたけど、ニューメキシコ州では家屋はもちろん自動車の車内にもケースなしで装填済みの銃を持つことができる。
隣家が遠く離れ(あるいは無く)、警察が来るまで時間がかかる地域では、犯罪から身を守るために銃を備えるという考え方が、彼らの立場に立つと理解できたし、多くの家で犬を放し飼いにしている理由にも納得した。不審者(僕たち?)には猛然と向かっていくくらいでなくてはならないのだ。
途中珍しい生き物にも遭遇した。
たぶん、ハイエナ。
進行方向の草原から数匹のハイエナが現れて、じっとこちらの様子を窺っている。背筋がヒンヤリしたが、せめて目の力で負けないように、目力を込めて睨みつけ、目を逸らさずゆっくりその横を通り抜けた(学生時代、地方の繁華街でヤンキーに睨まれた場面を思い出した)。
もう追いつけないところまで走って、「怖かったぁ〜〜」と相棒と目を潤ませて笑った。
あとで検索すると、アメリカにハイエナは生息していないようだけど、面構えや長い前肢、まだらの斑といい、図鑑の写真といっしょに見える。
それもこれも含めて、無事でよかった。
当たり前だけど自転車の旅は、自分自身はもちろん、相方が病気や怪我をしたら前に進めない。競走ではないから、互いのペースを合わせるのはもちろん、相手のコンディションや体力、精神状態を酌みながら、ベストなパフォーマンスを発揮できるように助け合うチームプレーだ。
それに加えて天候や道路事情、事故などの外的な要因もあって、自分たちだけでコントロールできない。
先が見えないどこまでも続く上り坂があれば、風を感じながら爽快に進む下り坂もある。どちらか一方だけではない。
そんなすべてが人生や組織と似ているように思う。
「そもそもお金と時間と健康があっても、列車や道路や帰りのレンタカー、道中の食事やベッドがなかったらこの旅はできなかったね。自転車だってそうさ。部品を作る人、運ぶ人、組み立てる人がいる。いろんなおかげがあって、今オレたちはこうして冷たいビールが飲める。ここは感謝をこめて、もう一杯いっとこう!」
夜遅いトーランスの飲食店の片隅で、僕らは2杯目のビールを力強く乾杯した。

 

11 12, 2016

ルート66を走る(その2)

「いたいたいたいたいっ!」
自転車旅2日目の夜、僕はホテルのベッドで入念にストレッチをしている。
アルバカーキからフラッグスタッフまで530キロの自転車旅は今日で2日目。
想定外のオンパレードながら、中間地点のギャラップまで到達することができた。
1つ目の軽い想定外は、前回のセントラルカリフォルニアの旅に負けないくらいグーグルマップのルート表示に翻弄されていて、個人の所有地(畑や牧場)を突っ切るルートだったり、マウンテンバイクでないと走行不能なルートに右往左往せねばならなかった。
そこへ持ってきて、ルート66は気まぐれに消えたり生えてくるもんだから、突然現れる通行止めの標識に途方にくれたりした。
気温が0℃近くまで急激に下がる日の入りは待ってくれない。さらに宿場町から次の宿場町は100キロを超える距離。
選択肢がない中で、深さがわからない泥水の水たまりを抜け、砂利道で足をさらわれ、時には高速で大型トレーラーが真横を走るフリーウェイを走り抜けた。
もうひとつの想定外は「犬」。
初日の午後、突然遠くから2匹の大型犬が真っすぐに僕らを目掛けて走ってくるではないか。
友好的な雰囲気でないことは真横まで迫った険しい表情でわかる。
身の危険を感じた僕らは必死でペダルを踏み込む。まだこんなに力が残っていたのかと感心するくらいの超スピードで。
それでも低い声で吠えながら、2匹の大型犬はしばらく僕らを追いかけてきたが、最後にはようやく諦めた。
怖かった。
久しぶりにキラキラ目が潤んだ。
それでもドラマは終わらない。。
大型犬を振り切ったと思ったら、しばらくして今度は10数匹の小型犬の群れが反対方向から向かってくるではないか。いい大人が子犬に追いかけられてまたまた全力で逃げる。
もう笑うしかなかった。
おかげで一夜明けた今日は、2、3匹の小型犬が追いかけて来ようものなら逆に怒って吠え返したし、牛が横切っても馬が現れても驚かなかった。
おっかない話ばかり書いたけど、風景はどこまでも壮大で、人は温かい。シアワセな旅をしている。
橋の上から眺める長い列車は地平線まで届いたし、グランドキャニオンのような神秘的な岩肌の山が、僕らを見守るようにどこまでも広がっていた。
食堂や水を補給する店では、店員や客がどこに向かうのか笑顔で尋ねる。通り過ぎる車はクラクションで僕らを励まし、すれ違う村人は人懐っこい顔で手を振ってくれた。
計画通りにいかない旅だからこそ、ふだん使わない脳みそや生きるための本能を呼び覚ましてくれる。
さて。この250キロはひたすら登り道だったけど、明日からは下りに転じる。80キロ先の宿場町にするか、その次の160キロ先の町にするか、出たとこ勝負で決めるのだ。

 

11 12, 2016

ルート66を走る(その1)

11月6日午後6時10分。東に1300キロ、ニューメキシコ州のアルバカーキに向けて、アムトラックはとっぷり日が暮れたロサンゼルスを出発した。
車窓をオレンジ色の街灯がゆっくり流れる。
今週は休暇をとって、自転車の相棒H氏と、アルバカーキを起点にアリゾナ州フラッグスタッフまで約500キロの道のりを、ルート66に沿って自転車で走る計画。
大陸を横断するルート66(国道66号線/3755キロ)は、中東部のイリノイ州シカゴと、西部のカリフォルニア州サンタモニカを結び、アメリカ西部の発展を促進した重要な国道だ。
何年掛かるかわからないけど、このアメリカ横断ルートとアメリカ縦断ルート(カナダのバンクーバーからメキシコ国境)を、無理せず無茶せずぼちぼちと自転車で走破しようと企んでいる。
それにしても今回の道中は、最低気温がほぼ5℃以下、とくにフラッグスタッフは0〜1℃だから冷蔵庫並みの寒さとの勝負。
とりあえず軽くてかさばらないユニクロのダウンやヒートテックをリュックにまとめて詰め込んだ。
がんばれユニクロ!いや、がんばるのはオレか。。

11 12, 2016