Y支店長

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メインバンクの支店長のY子さんが35年間勤め上げた銀行を今月いっぱいでリタイヤする。

元々日系資本の銀行だったが、撤退の時に地元の銀行が従業員ごと引き受けて今日に至る。人の移動もほとんどなくて、いつ行っても同じ顔ぶれの安心感がある。

窓口のスタッフはたまに僕が顔を出すと「おや、ボス(カミさん)はどうしたの?」と冷やかす。

古い日本の躾を受けているY子さんの教育か、お金を数える時にお札の向きと裏表を揃える。万事にガサツなアメリカでは珍しいことだ。

また、ちょっとしたことでもすぐに電話で知らせてくれる。役立ちそうな情報や人をよくつないでくれた。派手さも大技もないけど、人の顔が見える街の銀行だ。

Y子さんと知り合った頃の僕は、まだ30歳になったかどうかの若造で、会話をしていると「コミヤマさん」が「コミヤマくん」になった。母親よりも歳上だし、息子が僕と同世代らしく、時々お母さん口調になるのが可笑しかった。

やがて、不思議な呼び方だけど「コミヤマ氏」と呼ばれるようになり、40歳を過ぎた頃から「コミヤマ社長」と呼ばれるようになった。最近では社長と会長が混同するけど、どっちも正解だから気にしない。なんだか出世魚みたいだ。

今朝、これまでのお礼に顔を出したら、強く腕をつかんで引き寄せられた。そして目に涙をいっぱいためて、「ライトハウスが口座を置いてくれていることがずっと大自慢で、どこに行っても言わせてもらいましたよ」お世辞1000%をわかっていても気持ちがうれしかった。

「Y子さん、くれぐれもお身体に気をつけて。ますますお元気で過ごされてくださいね!これからこそ、どうぞよろしくお願いします。お世話になりました。どうかお元気で!」

「あなたのことが大自慢でした。ごきげんよう」

Y子さんは深々とお辞儀をした。

心の底のほうに「ぽっ」と火が灯った。もっともっと頑張らねば。