やさしい“兄弟”のなかで

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今日は息子の玄(はるか)の剣道のトーナメントの日。

朝顔を洗っている息子をリラックスさせようと、廊下の向こうから「おはよう。元気か!」とでっかい声をかけたら「おねえちゃん、起きちゃうだろ!」とすごく険しい顔で返された。

しょっぱい。

この日のトーナメントはカリフォルニアの19の道場から大人から子どもまで多国籍の剣士が集まって日頃の稽古の成果を競い合う大会(個人戦)。

玄は4−5級の部(高校生以下)に参加する。

前日の特練が終わって師範のクリス先生が豆剣士たちに言った。

「お前たちはどこの道場にも負けない稽古をやってきた。誰にも負けない稽古を乗り越えてきた。その自信を持ってのぞめ!勝っても負けても良い。自分が練習してきたことのすべてを出し切れ。いいな!」

「ハイッ!!」

クリス先生は今年アメリカ選抜チームのキャプテンとして、USが日本選抜を破って初の世界大会で準優勝した立役者なのだけど、頭が下がるくらい後進の指導に力を入れてくれる。そのクリス先生の背中を見て、トーランスの道場は先輩たちが本当に後輩たちの面倒を良く見てくれる。

剣道が強くなることも大切だけど、ヒトを思いやる気持ちや無償で尽くす尊さ、そして礼儀の大切さを自然に学ばせてくれる。

ボクも小学校の時に4年間剣道をやっていたのだけど、同じ武道、同じ生き物の集まりと思えないくらいトーランス道場は素晴らしい。

さて玄の試合のほうは、

一回戦は不戦勝で、二回戦はアタマひとつ分大きなおにいちゃんに一本勝ちで辛勝。三回戦、準決勝もなんとか勝つことができた。

そして決勝。

12歳で学年でも一番小さい方の息子の相手は、ボクよりも背が高いおにいちゃん。

40センチ以上の身長差だけど玄は必死で食い下がる。竹刀のスピードもリーチもずっと向こうの方が上手だけど気力だけで食らいついている感じ。

「パシンッ」

相手の飛び込み面がまともに玄のアタマを打ち込んだ。

「やられた。もうダメじゃ」

となりで淡白に解説する親父にムッと来る。

「パンッ!」

もう時間切れというところで今度は一瞬飛び上がった玄の渾身の面が決まった。

審判の赤い旗が挙がると同時に会場が揺れるくらいの歓声が上がった。

お互いに一本ずつ取ったところで時間切れの延長戦。

が、ここまで。延長直後に鋭い相手の一撃が玄の面に落ちた。

あと一歩だったけど正直息子には良かったと思っている。

ボクに似て、自信過剰ですぐ慢心してしまう性格だから悔しい気持ちを残して終わった方が今は良い。

息子はこの試合に絶対に優勝すると意気込んでいた。そのぶん、練習も頑張ってきた。荒くて不器用な剣道だけど。

試合に負けて泣きじゃくる息子を仲間が一生懸命に慰めてくれる。

長身で男前の青年、金先生は、泣き止むまでずっと玄の背中をさすり、身体を抱き寄せて慰めてくれた。遠くで見えないけど優しい顔で言葉をかけてくれている。

ボクはそれを見ているうちについ二人がにじんで見えなくなってしまった。

そんなこと本当の兄弟だってしてくれない。

やさしい“兄弟”のなかで育つ息子は本当に幸せだと思う。