帝国ホテル

NO IMAGE

日本出張からあっという間に一週間が過ぎた。
忙しい毎日に風邪のほうもかまってもらえないから退散したようだ。

LCE(ライトハウス キャリアエンカレッジ)は、昨年の創業の時から東京、京都、ロサンゼルス、サンディエゴの4拠点の離れた環境でスタートした。

最初のうちは、離れているがゆえに、誤解や摩擦や行き違い、説明不足が原因で心を痛めることもあったけど、常に「お互いの信頼」という原点に帰ることで乗り越えることができた。

信頼は日を追うごとに強くなる。もちろん、ホンモノになるにはこれからだけど。

今は拠点が離れていることを強みに、日米であるからこそ24時間、同じ夢に向かってベクトルをかさねてブルドーザーのように前進し始めた。

さて。先週はお客さんが日本を含め方々から大勢来てくださった。

水曜日には、帝国ホテルのロサンゼルス事務所の所長の小川賢さんがごあいさつに来社。

帝国ホテルとは10年余りのつきあいになる。

日本の出張で帝国を利用するようになったのは、その当時所長の青木さんと知り合ったのが縁だ。当時は背伸びして泊まっていたのだけどね。

青木さんとはお互い20歳代後半だったろう。
飲みに行ってはお互いの価値観や夢を語った。

「僕はこの帝国ホテルの社長になりたいと思って入社した」

「ある時、常連のお客さんに教えてもらったんだよ。一流のホテルマンになりたいなら一流の目を養わないといけない。身銭を切れ。ムダ遣いをしないで一流の店に行け、美術館や博物館で目を肥やせって」

一流のホテルマンであろうとする真っすぐな青木さんが好きになったし、そんな彼の生き様を通して「帝国ファン」になった。
それと同時に「目を肥やす」ということを人生の中で強く意識するようになった。彼もまた自分を磨いてくれた友だ。

実は初めて「帝国ホテル」の名前を知ったのはもっと前に遡(さかのぼ)る。1986年の1月5日、ボクが航海訓練所の実習生の時だ。

帆船日本丸で、酷寒の北太平洋にルートを取って、ホノルルへ向かう遠洋航海の出航前のセレモニーで、その当時の運輸省のエライサンが来賓挨拶でこう言った。

「実は本日、みなさんの日本丸でランチをご馳走になりました。みなさんは本当に恵まれている。本船のカレーライスは、日本一の帝国ホテルのカレーよりおいしいのです!」

命がけの航海を前に、あまりにピントのずれた話題選びに感心したのと、「日本一の帝国ホテル」というフレーズがずっと耳に残った。

近年大掛かりな改装工事をしてハード面はいっそう充実したけど、帝国の素晴らしさはソフト面の充実だろう。

明日の天気から交通機関の時刻や乗り継ぎ、複雑な依頼や伝言にもいつだって気持ち良く対応してくれる。

高くて硬めの枕が好きなボクのために、指定しなくても籾殻(もみがら)の枕を2つ用意してくれている。

毎朝6時前には、日経とジャパンタイムスが新聞受けにさされる。

施設の充実も素晴らしい。

ボクの場合、日本出張中はアポイントをパツパツに入れるので、朝食もビジネスミーティングを入れることが多い。

そんな時、一階「ユリーカ」(2007年3月から「パークサイドダイナー」にリニューアルオープン)の名物のパンケーキはゲストを大いに喜ばせる。そうそう、忘れてはならない。この「アゼリア」のカレーライスはホントにほっぺたが落ちる。運輸省のおっちゃんもよく持ち上げたもんだ。

また、本館最上階のバッフェで東京の景色を眺めながらビジネスの話をするとでっかい仕事ができそうな気になってくる。

今回も、ニューヨークで情報誌を発行する新谷さんと、LCE の副社長の竹内と3人で朝食を摂りながらのミーティング。新谷さんは前日に日本入りして、その日の午後には香港に発つから忙しい。

また昼食には、大切なお客さんとの会食に、地階の「なだ万」の個室が重宝する。予(あらかじ)めお尻の時間を伝えておいたら、それに合わせて料理を運んでくれるし、夕食に比べたら、一流のサービスと味が手頃な料金で得られるからぜひおススメしたい。

さらに夜は夜で、銀座や新橋で会食の後、クライアントや仲間と語らうなら、2階の「オールドインペリアルバー」がしっとりしていてなかなか良い。カウンターはグラスの辺だけ丸くスポットライトが照らしてくれる。バーテンダーは余計なことを言わない。

ひとりなら、シングルモルトに大きくカットした氷を浮かべて、ゆっくり味わいながら一日の疲れを溶かすのもいい。

大きな仕事ができたときは、ドンチャン騒ぐより、静かに目を瞑って感謝しながら飲みたい。ムリに盛りあがる酒は40歳を過ぎて疲れる。

だから、ボクはあまり華やかな女性のいる店には自分から行くことはない。

たまに。

そう、たま〜に頭を真っ白にして遊ぶのも楽しいけど。

せっかく限られた人生の、それも出張中というもっと限られた時間の中で、その夜その人と会っている時間はとても大切な時間だから、相手を知ったり、学んだり、あるいは仲間であれば、夢を語ったり、過去を懐かしむことに費やしたい。

それと、長く利用していて気づいた良いことが2つある。

ひとつは客筋が良いこと。
行儀が悪かったり、だらしない客を見かけることがほとんどない。

いくらホテルが素晴らしくても、そこに集う客が場違いだったり、連れ込みホテルと勘違いしていては空間もブランドも壊れてしまう。

ここではエレベータの中でも、人種を問わず自然と会釈をしたりあいさつを交わす礼儀正しい宿泊客が多い気がする。

何か良い「気」が宿っている感じなのだ。

ちなみに外国からの宿泊客が半分を占めるのだそうだ。

新宿や恵比寿、六本木にはもっと新しくて高額なホテルもあるけど、ボクは伝統のある帝国ホテルが落ち着いていて好きだ。

もうひとつは、日本に出張していると、初めての相手にはたいてい宿泊先を聞かれるのだけど、帝国ホテルと答えるとまず安心してもらえること。

とくにその傾向は年配の方や経営者、大御所のような方ほどその傾向が強い。相手の立場で考えたら、会社の信用であったり、数千万円からの仕事を任せるのだからその選択は重要だと思う。派手であってはならないし、不安になるようなところでもいただけない。

小川さんに失礼を承知でこんな質問をしてみた

「近年、高級な外資系のホテルが都内では進出ラッシュですが、スタッフの引き抜きや移動はありませんか」

「それが私の知る限りないんですよ。とても手前味噌で恐縮なんですが、職場環境やいろいろな面で恵まれているし、何よりみんな帝国ホテルが好きで入って来たので、他に移ろうという気持ちにならないのかも知れません」笑顔で答えてくれた。

思わずうれしくなった。誇りを持っている人と話すのは気持ち良い。
ますます帝国ホテルが好きになったし、この人と酒を飲みたいと思った。

そして我が身を振り返り、ライトハウスやLCEのメンバーがどこかで同じ質問を受けた時、言葉はちがっても同じように答えてくれるような会社を創っていきたいと思った。