説教オヤジ

NO IMAGE

先週も来客や会食が多かった。

月曜日は、昨春、地中海のクルーズにいっしょに行った石川夫妻がお泊まりで来て、限りなく業務用のカラープリンターを設置してくれた。大判の印画紙にプリントアウトされたそれは、写真館の写真に負けないくらいの高品質で驚いた。

大切な人を写真で撮ったら、額に入れて贈ろうと思う。

石川氏の本業は、ヨーロッパを中心に世界中に向けての、e-コマースによる天体関連商品の販売。だから、その周辺の高性能なプリンターやパーツも扱っている。

夕食では、彗星や日食についてのムズカシイ話をわかりやすく解説してくれる。実践的なヨーロッパでのマーケティングの仕方も参考になる。

それだけでなく石川氏は、商社マン時代、長い間サウジアラビアに駐在したり、中東諸国とも取引をしていたから、世界の商習慣やマーケティングに明るい。かれこれ18年のつきあいになるけど、ビジネスにプライベートに教えてもらってばっかりだ。

水曜日は、ノスコという映像制作やイベント、広告代理業の会社を営む小林社長と番頭の濱田さんと「山水亭」でカルビとホルモンをつつきながら新年会。

小林さんの会社は、昨年のB’zのライブツアーのDVD「MONSTER’S GARAGE」を制作したり、日米の有名ブランドのコマーシャルやプロモーションビデオを作っているクリエーター集団だけど、その洗練された映像と、名古屋出身の剣道四段、信州大学教育学部卒業の無骨な風貌がどうしても結びつかない。ソフトボールの試合では、その丸太のような腕で、公園の外のテニスコートまでボールを運ぶ。どうもクリエーターから遠い。

一方、番頭の濱田さんも小林さん同様体育会系のスポーツマン。熱くて、礼儀正しい立ち振る舞いが前面に出るけど、思慮深くストリートスマート。すごく楽しみな人だ。

市場調査も強い小林さんとは、日本から中小企業でも、元気の良い会社が進出できるようお互い協力しましょうと誓う。

また、小林さんが親しくしている、ポートランドで(一代で)年商数百億円のグループを築いた吉田ソースの吉田社長を、(本人不在で)いっしょに訪ねることにする。吉田社長の自宅のパーティには500人の名士が集まり、州知事が仮装してはしゃぐという。すごい日本人がいたもんだと思う。ぜひ会って学びたい。

翌日の木曜日の午後は、知人のお嬢さんとその友だちが会社を訪ねてくれた。20歳代半ばのふたりは、半年間かけて世界一周17カ国を訪問した。ロサンゼルスはいよいよ旅の最後の町。

以前に日本で会った時は、お父さんの会社の制服姿で、色白のおっとりした娘さんだったのが、20キロの荷物を背負って、世界各地を旅したせいか、小麦色で精悍な表情に変わっている。話し振りもなんだか自信がついて頼もしい。う〜ん、かわいい子には旅をさせよか。お父さんも勇気がいったことだろう。

もうひとりの女の子は、フランス人と日本人の両親を持ち、一見すると女優さんのような顔立ち。少し話しただけでキチンと愛情と躾(しつけ)を受けて育ってきたのを感じる。

旅の途中には、南米で荷物を引きちぎられそうになったり、インドで付きまとわれたりもしたけど、その多くは感動し、工夫し、楽しい旅であったようだ。

就職を控えたその女の子が「ホントは起業したいけど、親が心配をするから就職しようと思う」ともっともらしいことを言うので、

「娘が起業すると言ったら、親は心配をするかもしれないけど、それは人生の中の点や瞬間でしかない。すべてのことを本質で考える習慣をつけて。決して、目先で考えてはならない。常識だって時代とともに変わっていくんだ。目先や常識にとらわれない本質の目を持って。

本質で考えるなら、親は子が幸せであることが幸せなんだから、キミは自分が幸せになることを考えたらいい。じゃあ、幸せって何かと言えば、人生を通して夢中になれることや、大切なものを持つこと。そして、それによって目の前の人を幸せにすることじゃないか。

仕事だって、家庭だって何だっていい。5年後、10年後、20年後のキミが、目の前の人たちを幸せにしていたら、きっとキミ自身の人生は素晴らしいものだし、キミの人生が素晴らしければそれは立派な親孝行だと思うよ。少なくともボクは、自分の子供たちがお金やモノに囲まれて暮らすことより、まわりの人に感謝され、愛されるような人生を目指してくれることを望む。

大切なことは、起業するか組織に属するかではなく、自分は人生で何がしたいか、何ができるか、そして誰をハッピーにできるかなんだ。起業も組織もその方法に過ぎない。ましてその判断基準に、親の心配云々というのは問題のすり替えでしかない。

本質で考えて。そしてもっと言えば、お金やモノではなく、人の感謝や笑顔を追いかけて。欲望には際限がないけど、人の感謝や笑顔は、無限のエネルギーと心の平安をもたらしてくれるから」

うるさいオッサンだと思う。だけど若い人たちにはついチカラが入ってしまう。自分が助けてもらってきたようについ放っておけなくなる。

少しだけ吹っ切れたようなふたりを見送った。
若いふたりの幸せを祈る。

(その夜、ふたりからそれぞれ、ていねいなお礼のメールが来ていた)

こうして若い人をつかまえては語って聞かせるボクを、カミサンは説教オヤジと呼ぶ。彼女こそ一番本質で考えてほしいもんだ。