奇跡の連続

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朝7時半に会社に着くと、いつも黒いセリカが先にパークしてある。デザイナーの西村くんの車。半分半分くらいの割合で、編集長の西川さんのアキュラがあったりする(その前の晩、深夜過ぎまでメールのやり取りをしている日も)

早朝のオフィスは気持ちが良い。奈良で入手した、大きな鉢を循環する水が流れる音以外は何も聞こえないマッサラ空間。仕事もザクザク捗(はかど)る。

さて。最後にブログを書いたのは出張前。

あれから一ヶ月あまり(帰国してからは10日)。実感としては2年くらい経った感じ。あまりにもたくさんの出来事があって語り尽くせないくらい。

うまく言えないけれど、この一ヶ月は、事業構想を実現するためにこの人物ナシにはありえないという仲間の合流が決まったり、また将来を担っていくであろう新人二名の採用が(電撃的に)決まったり、日本や地域を代表する学校や学校群の大型プロジェクトを次々と任せていただいたり。

もうこれは自分たちの力を遥かに超えたところから導かれているとしか思えない。毎日毎日が奇跡の連続だった。

毎回、日本の出張は、「大学や専門学校の学生や職員向けの研修プログラムの提供」、「学校経営に関するリサーチと経営課題解決プログラムの提供」を目的に、日本をあずかる高畠にくっついて、日本中の学校を行脚する。

それに加えて今回は、アメリカ側のライトハウス・キャリア・プランニング(LCP、2,000年創業)と、日本側で高畠が経営するキャリア・エンカレッジ社が、この秋にひとつになって、ライトハウス・キャリア・エンカレッジ(LCE)としてスタートを切る、その準備のための出張でもあった。とにかく盛りだくさん。

実はこの機会に、以前から議論に出ていたHR(人材業)分野にも事業領域を広げることが決定した。

その理由として、もともと高畠やライトハウスが大切にしてきた「世界中、日本人がどこでも活躍できる世の中作り」を実現するために、情報発信や「学びの場」作りだけでなく、実際に「活躍の場」と「動かす人」の接点作りを世界規模で実現するためだ。

これを、現在すすめている世界メディアアライアンスの仲間たちにも協力してもらって、日米だけでなく、アジア、ヨーロッパなど、日本との二国間、三国間で、人材が自由に行き来し、それによって大手企業だけでなく、日本の中小やベンチャー企業も、世界に活躍の場を広げることができたらどんなに楽しいだろう。国境だけでなく、人種の壁も越えてみたい。と毎日ワクワクしている。

そうそう、今回こんな大きな収穫もあった。

今年初めて学生研修を採用してもらったある地方の専門学校で、理事長や担当の先生、系列の旅行社の担当者とともに、振り返りのミーティングがあった。

参加した学生からレポートは出ていたし、引率の先生からも、直接われわれメンバーに感謝の言葉をいただいていたから、いつものように労いの言葉をいただき、来年に向けての建設的な意見を交わす場を想像して出席した。

とくに、感激に満ちた参加者のレポートから、研修の成果として100点満点ではないけど、80〜90点くらいの感触は得られていた。あとは、残りの点数をどうやって埋めて、サプライズで満たすか。そんな議論を期待していた。

が、結論から言うと、系列の旅行担当者から「吊るし上げ」状態で罵詈雑言を浴びせられた。一切の言い訳をしなかったけど、どうとでも解釈できる盲点のような部分を攻めあげられた。もちろんそれ以外に、反省や改善の余地もある。担当者の口は歪み、声は上ずり、手が怒りと緊張で震えている。

反省材料のひとつに、参加者のひとりが、研修中に置き引きにあって財布を取られたことがあった。ライトハウスのメンバーは、その場ですぐに警察を呼ぶことを打診するとともに、たぶんキャッシュは戻ってこないことを正直に伝えた。しかし、そのことを旅行担当者は薄情だと指摘し、「なぜそういうリスクが予想されたのに、毎日参加者に注意を促してくれなかったのですか」と迫った。理事長を前に声はさらに大きくなる。

たぶん、ちょっと前の自分ならご縁がなかったことを伝えてあっさり席を立っていたかも知れない。

この「場」は何を学ばせてくれているのか。

頭を一生懸命に研ぎ澄まし、想いを一点に集中する。やがて罵りの声が遠くなっていく。

最初に、労を惜しまず、少しでも良い研修にしたいと取り組むメンバーの笑顔が浮かぶ。数人しか集まらない説明会にも根気よく通ってくれた隣に座る高畠、そしてこの研修を実現するために全面的にバックアップしてくれた理事長や、若い教務の女性スタッフたち。この研修はたくさんの方たちの想いが重なって実現した。そして今日を迎えている。

この「場」は何をオレに気づかせようとしてくれているんだろう。

目の前の相手と同化しようとさらに神経を集中する。自分が旅行担当者のSさんになって、高畠と自分に向かっている。自分たち二人が視界に入る。

「本来、我々という旅行会社があるのに、旅行社でもないシロウトが理事長に取り入りやがって。おかげでオレたちの仕事は奪われた。理事長の後ろ盾があるからエラそうにしやがって。本来、お前たちは下請けなんだぞ。今日という今日は許さない」

ホントにそう思っていたかどうかはわからない。

でも振り返ると私にはずいぶん傲慢があった。この人の態度はそのまま、この人に相対してきた自分の姿そのもの。自分の「鏡」だったんだ。

その人は理事長から一年以上前に紹介してもらった。

「安い」ことが最大の価値で、本来の「学生の気づきや転機」を軸に語れない(と、一方的に思い込み)その人とのやり取りに疲れ、私たちは露骨に嫌悪感を示した。

学生の未来に熱い想いのない人間は去るべきだし、今もそう思っている。

だけど、私はそのことを大義名分に、Sさんと話し合って耳を傾け、価値を伝える努力もせずに、理事長に直訴して、自分たちがいつも組んでいる旅行会社を連れてきた。

最初から、Sさんに対して、旅行のプロとしてのリスペクトもなく、仕事をいただく立場なのに、信頼関係を築く努力もしてこなかった。

こんな人間に、とても力を重ねようなんて思えないし、心を開こうなんて思えるはずがない。

ガーン!!

また原因は自分だった。

妥協は決してしないけど、まず自分が心を開き、プロに対して敬意を持つところから関係を築かなくてはと大いに反省する。Sさんに対して、すまなかった気持ちが湧いてくる。

最後は「反省点が前面に出たけど、本当にうちオリジナルの素晴らしい研修だったと思います。とくに現地のメンバーのみなさんの献身的な態度には心から感謝します。全体としては大成功。本当にありがとうございます。来年からは学校の正規プログラムの対象にします。さらに良いものをいっしょに築いていきましょう」という理事長の労いの言葉で締めくくられた。

その後、素直な気持ちで担当者のSさんに、これまでいたらなかったことを詫びた。自分から変わろう。

その後の数日間、「あの機会」を振り返りながら、さらに大切な「ヒント」があるような気がして、どうも引っかかった思いのまま出張を続けた。なんだろう、なんだろう。

ある時答えは突然、新幹線の青空の車窓に現れた。

「近い将来、一万人や十万人の研修を受け容れるようになった時に、いかに厳しい視点をもってしても、一部の隙もない完璧な研修を今の段階から作っていかないと、このままでは品質を保てないぞ。あらゆる精度を高めよ。あらゆるリスクを塗りつぶせ。ミスがでないシステムとチェック機能を構築せよ。大量の人数に対してもキチンと目の行き届く、そういう想いと技術を兼ね備えたホンモノの研修を目指しなさい」

そんな「声」が聞こえた。

振り返ると、この「気づき」もまた、今回の出張で一番の収穫のひとつだったろう。大感謝。

そして、私がしょっちゅう不在にしていても、ライトハウスを守ってくれているメンバー全員に大感謝。いつもありがとう。日本とアメリカのメンバー全員が物心ともに幸せになれる会社を創りたい。