地中海・日食をめざして (前)

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(3月23日)

夕刻、ロサンゼルス国際空港に、今回いっしょに旅をする親友の石川夫妻、その友人のひろみちゃん、石川氏のお母さん、そして込山ファミリーが合流。


とうとうこの日がやってきた。

 

石川夫妻から声をかけてもらったのは昨年の秋頃。
数年に一度しかない日食。しかもヘンピ(アマゾンだったり、砂漠だったり、極地だったり人間が踏み込めないこともある)な地域ではなく、気候的にも安定している今回の地中海の日食はまたとないチャンスだ。子供の学校を一週間も休ませなくてはならないのが気になったけど、自分がそうであったように彼らにとって、親と旅行をして心から楽しいと感じられる時代はもう残り少ない。親として彼らには思い出を遺してやりたい。そう思うと決心は早かった。


いつもアジア系やヒスパニック系を中心に、ひたすらごった返している午前中の出発ロビーとはちがい、夕方のロビーはほとんどが白人客で、全体に穏やかな雰囲気。便数が少ないのと欧州線が中心だからか。経由地のミュンヘン(ドイツ)に向かうルフトハンザ機はさらにその傾向が強く、アジア系はわれわれ一行だけだった。乗客の多くがベッカーやグラフの系統の顔立ちに見えた。ドイツ語の機内放送が旅心を盛り上げていく。ドイツのビールおかわり。


(3月24日)

曇天のミュンヘンから小型機に乗り継ぎ、ちょうどスイス、オーストリア、イタリアの国境が集まる上空を通過してジェノバ(イタリア)へ飛ぶ。雲間からは天を突くような山々が顔をのぞかせる。

うとうとしているうちに2時間足らずでジェノバに到着。ここから30分、タクシーで海岸線を走らせる。トンネルとカーブの多い道を容赦なくアクセルを吹かす。ふと、この運転手がどのくらい保険に入っているのか気になる。そんな気持ちをよそに風景は矢のように流れていく。

明日から乗船するクルーズ「コスタ・フォーチュナ」が停泊するサボナの宿に着いたのは、あたりが薄暗くなった夕方の6時頃。家を出てから19時間経つが、不思議と疲れはない。その場でストレッチをしたら身体は現地時間だ。


手早くシャワーを浴びて、以前にローマで手に入れた丈の短いコートを着て、ホテルお薦めのイタリアンレストランへ歩く。

明日からの安全を祈って、一同シャンパンで乾杯。
蛸とポテトの煮込みも、生ハムと青野菜のピザも、イカ墨のパスタも何を食べてもことごとく美味い。アコーディオンの流しが、懐かしいような曲をテーブルで演奏してくれる。勢い追加のワイン2本も空っぽ。


気分が良いので、子供たちを寝かせてから、石川氏と石畳をぶらぶら散歩しながら酔いを醒ます。つもりが、気になるバーに入って夜更けまで思い出話で飲む。




(3月25日)

4月はそこまで来ているけど、港町サボナの朝はまだ十分に肌寒い。

午前中は、子供たちに引っ張られて、あてもなく古い町並みをぶらぶらと歩く。そのうちにどこを歩いているのかわからなくなるけどそれもまた楽しい。ふと入った路地裏、そこで通り過ぎる人たち。また自分はこの通りを歩くことがあるんだろうか、通り過ぎた人と何年か先にすれ違うことはあるんだろうか。


事前の案内には13時から乗船受付とあったけど、一時間前に行って正解。
すでにたくさんの乗客が到着して、乗船手続きをしている。われわれのタクシーも、若いスタッフが手際よく誘導して、その場でスーツケースなど大きな荷物はチェックインしてくれる。たいへんよろしい。



そのまま手ぶらでカウンターに行って乗船手続き。隣接の待合室のソファーで一時間ほど経った頃、ようやく今度は出国手続き。流れに身を任せていよいよ乗船。


12階まで吹き抜けガラス張りのエスカレータに乗って一気に9階へ上がる。
各階の斬新な色使いや装飾が立体的に視界に入る。


9階にある海側のキャビンは、12畳くらいの部屋の中に、マスターベッド、子供用の二段ベッド、シャワールーム、クローゼット、デスク、テレビ、冷蔵庫などがコンパクトに納まっている。ドアの外側にはバルコニーがあって、小さなテーブルと、読書がしたくなるような椅子が2脚。その向こうにはこれから旅をする青い地中海が広がっている。


さっそくみんなを誘って船内の探検に。

朝方の雲はどこかに消えて、いつの間にかブルースカイが広がっている。同じ階のデッキには船首と船尾のプール、ジャグジ、レストラン。11階に上がるとトレーニングジムやサウナ(スチーム、ドライ)、エステサロン、ヘアサロンなどが完備している。11階受付に行くと、笑顔の男性スタッフがていねいに案内をしてくれる。ジムも本格的な施設が揃っていて、オーストラリア出身のスポーツトレーナーはプライベートトレーニングも受け付けている。こんなキレイな女性ならトレーニングも力が入りそうだ。心強いではないか。12階のフロアには2台の卓球台やキッズコーナー、子供用のプールもある。朝から晩まで子供たちを預かってくれるのだ。それも単に預かるだけではなく、子供たちを飽きさせないさまざまなプログラムが充実している。(しかし息子は、オシッコを溜めている子供とは遊べないと、自分を棚に上げて頑なに参加を拒んだ)


その他に船内には複数の劇場、アートギャラリー、カジノ、チャペル、インターネットカフェ(ただし、これはさっぱり繋がらなかったけど)、テニスコート、図書館。バーにいたっては船内11箇所にあるという。とても全部回りきれない。


すべての乗客が乗船を完了したところで、避難訓練開始の船内放送。これが国際的なクルーズらしく、イタリア語、フランス語、英語、スペイン語、ドイツ語、ポルトガル語(ここまでが船内の基本言語)、これに日本語や数カ国の言語でもアナウンスしてくれる。乗客はライフジャケットを着用して、緊張感のない表情で5階の救助艇のところに集合。ひととおり非常時の説明を聞く。面倒な儀式が終わると、みんな大喜びで手をたたく。


船が汽笛を鳴らしながらゆっくりとサボナ港を後にする。いよいよ出航。
しばらくぶりの船がうれしくて、バルコニーから小さくなっていく港をいつまでも眺めていた。


(3月26日)

クルーズでは毎晩4ページの船内新聞「コスタトゥデイ」が配られる。ありがたいことに日本語版も発行されている。

コスタトゥデイには、航行情報、船からのお知らせ、翌日(当日)の催し物、食事やショッピングの情報が案内されている。船内の行事は、朝の運動から始まって、各種アート&クラフト、イタリア語やギリシャ語など語学講座、スポーツ大会、クイズ、ダンス講習、ゲーム、セミナーなど同時進行で一日中、船内のそこここで実施していて飽きることがない。毎晩食事の前後には、クラシックのコンサートやタレントショー、マジックショー、クルーによるダンスや歌謡ショー、ビンゴゲームなど、大掛かりな催しも日替わりで実施される。


夜中は夜中で、ゴージャスなミッドナイトバフェをやっているから、乗客は寝る間を惜しんで多種多様なイベントを満喫する。10万トンで全長が300メートル近いこのクルーズにはおよそ思いつく施設や環境がすべて揃っているのだ。


カーテンから漏れる朝陽でゆっくり目覚める。
バルコニーにでると、濃紺の地中海と水色の空が眩しい。流れる風のシャワーが心地よい。船はおよそ時速40キロメートルで地中海を南下する。


息子とデッキを散歩してから、10時の卓球大会に参加する。
初戦はフランス出身のカットマンを撃破。まずは肩慣らし。


一回戦をひと通り眺めて、気を抜くと優勝できないなと少し気を引き締める。が、シーメンスの赤シャツ男に2回戦で軽く敗退。誰も気付いていないが、本来の力を発揮する前に自ら姿を消してしまった。悔しい・・・。


卓球名人の石川氏はちがうブロックで、準優勝したイタリアの毛皮商アレックスと2点差で惜敗。アレックスは、マイラケット(持参したラケット)を持ってトーナメントに参加していたから気合の入り方がちがう(後日、ラケットを借りてアレックスと試合したら3勝3敗だった)。次回はマイラケットを持ってこようと決意。


二日目のディナーはフォーマルナイト。
めずらしく石川氏もネクタイで決めている。元商社マンの同氏は、10数年前に独立して、天体観測周辺の商品を、世界中の人々にインターネット販売している。

www.astrohutech.com


仕事も性格もまったくちがう石川氏とはかれこれ17年のつきあいで、思いついては、いっしょに4000メートル級の山(ホイットニー)を一日で登ったり、おなかを壊すまで酒を飲んだりする。(もうひとり、高津氏と言う隊長がいて、この夏も3人でホイットニー登頂のタイムトライアルに挑む)


話はフォーマルナイトに戻って、石川氏の母君は桜色の鮮やかな着物姿でイタリア人を喜ばせ、子供たちもネクタイやドレスで目いっぱいおめかしをしている(12歳が化粧をするな)。行き交う老若男女は、ここ一番パリッと決めていて船全体が華やかなムードに包まれる。食事の前にはコンサートホールでキャプテンやオフィサーからのあいさつ。何カ国もの言葉で流暢にしゃべっているのがカッコいい。シャンパンがキリリと冷えて喉越しが良い。贅沢な時間が流れていく。


(3月27日)

8時のオープンと同時にジムに一番乗り。
海を眺めながらトレーニングとサウナでたっぷり汗を流す。


午後はギリシアのカタコロンに到着。

観光バスでオリンピアにあるオリンピック発祥の地を訪ねる。が、あまり遺跡に興味が向かず、子供たちと鳥の巣や草花の写真を撮って過ごした。車窓を流れるカタコロンの住宅は、コンクリートの簡素なつくりやバラックのような家屋が連なる。遺跡でガイドの長い解説を聞くより、町並みを眺めたり、路地裏に踏み込む方がワクワクする。ライトハウスに長年執筆いただいているミスター世界こと関根さんがコラムの中で「サラダはギリシアが世界一」とおっしゃっていたけど、なるほどギリシアのサラダは抜群にうまい。


この夜のディナーのテーマは「地中海」。
前菜、スープ、パスタ、メイン、サラダ、チーズ、デザートと、毎晩コース料理が楽しめるのだが、この日はイタリア、スペイン、フランス、ギリシア、オランダの名物料理を、それぞれ自分の好みで組み合わせてオーダーするようになっている。ワインは、その日の料理にあうシャンパン、白、赤ワインがそれぞれ一本、日本語のメニューに表示している。ワインは通常ボトルで20ユーロ以内で手頃(クルーズの料金には通常食事代は含まれるが、ドリンクは別払い)。なんか飲んだり食べたりの話ばかりしてるみたいだけど、まったく飲んだり食べてばかりだから仕方がない。それにしても何を食べても美味しいのはどうしたことか。


(3月28日)

日中はギリシアの南の島クレタ島のヘラクリオンに上陸して観光地をまわる。
映画で見たように、地中海の風景はとても美しいけど、パロスバーデスやレドンドビーチの海、そして私が生まれ育った瀬戸内海の海もぜんぜん負けてないなと思った。そういう風景のそばで暮らせることもありがたい。




この日は娘の13歳の誕生日。早いものでとうとうティーンになった。
ディナーの席では石川夫妻やお母さんから心のこもったプレゼントをいただく。そして彼女の名前が描かれたケーキが船から贈られ、ウエイターたちがハッピーバースデーを歌ってくれた。この日は特別。夜遅くまで子供たちとゲームや卓球をして遊んだ。船で得たサービスのヒントを書きとめ就寝。

いよいよ明日は待望の日食だ。