旧友からのメール

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バレンタインデーのロサンゼルスは26度を越え、空は広くきっぱりとした青空がまぶしい。デスクから外を眺めながら冷しソーメンを想う。

今朝は商船学校時代*(注釈)の仲間からふたつのメールが届いた。

日本の天気予報の会社に勤め、バレー部のキャプテンをしていたKからライトハウスのサイトについての感想と、こんな動画を入れたらどうよと、いくつかのアイデアをもらった。内容はともかく、うれしくてそのまま社内に転送した。

ケミカル専門のタンカーの会社に勤め、剣道部の主将だったYからは「毎日見てやってるから、もうちょっとマメにブログを更新するように」と警告された。ほっといてほしいけどうれしい。

つい一昨日は、転職の相談があった、元秀才のTから「やっぱり家族と長い時間過ごせる今の会社に残ることにした」とメール。カミさんもカアちゃんも思いのほか喜んでくれたそうだ。転職先では150メートルもある豪華客船の一等航海士のポストが用意されていたから船乗りとして悩みに悩んだと思う。

商船学校では一年生の前期でギブアップして、授業にも、国家試験にも、就職にも、肝心なところはすべて落ちこぼれだった私は、同窓会で海運業界周辺で活躍する仲間の話を聞くとうれしくなるし、みなが眩しい。

船の知識は清々しいくらい身に付かなかったけど、卒業して20年経つ今でも、こうしてつきあえる仲間が得られたことが一番の財産だ。やつらとは、お互い出世しようが乞食になろうが絆の強さは変わらないし、ぶれない。

いつの間にか、勘定を心配しないで寿司屋の暖簾をくぐるようになって、憧れの車に乗れるようになって、人を励ますことも多くなったけど、卒業してアメリカに渡ってすぐの頃、小さな挫折と借金で挫けそうになった私を、汚ない字の手紙で励まし踏ん張らせてくれた仲間たちへの感謝を忘れない。あの時、どっちに転がり落ちてもおかしくない脆くて染まりやすい自分だったから。

若い人たちに伝えたい。娘や息子に伝えたい。
勉強も大事だけど、そんなことよりもうんと大切なこと。

それは、友だちを大切にすることや人の傷みがわかること、相手と傷みを分かち合えることだと思う。基本の基本が大事なのだ。

うまく言えないけど、友情とか愛情って、ギブアンドテイクでもなければテイクアンドテイクでもない。ひたすらギブアンドギブだと思う。見返りを求めてはならない。

与えられる一方の人生を過ごしてきたけど、この頃少しそう思えるようになってきた。

【込山洋一】


*弓削商船高専航海学科の学生として、瀬戸内海に浮かぶ、愛媛県の小島「弓削島」で5年半(うち国内外の航海訓練を一年間。帆船日本丸にも乗船)を仲間とともに過ごす。