10倍にアップグレード完了

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5月13日(水曜日)
この日は午前中、アロハストリートの営業のみなさんに、牛角のお弁当をいただきながら情報交換会&レクチャーをさせてもらう。

午後からはいったんホテルに戻って、日本とのスカイプ会議。

夕方からは今回のハイライトでもある稲盛和夫さんを囲んで、ハワイの盛和塾準備委員会のみなさんとの懇親会。

ここでもハワイだけでなく全米の経営者と深い話をすることができた。
とりわけ、ロサンゼルスから参加しているM社長の話は参考になった。

「盛和塾に入る前、雇う側と雇われる側の対立の経営をしている時は訴訟やトラブルの毎日だった。盛和塾に入って気づいたのが、金儲けは手段であって、目的ではないこと。目的は本来、従業員やまわりの人をシアワセにしてあげること。不思議なもんで、社員のためにやってあげようと姿勢が変わると、問題も少なくなって、社員が会社やボスのためにチカラになろうって変わるんだねえ。それがわかるまで1年半もかかったけどね」

「利益率が5、6%では危ないよ。ちょっと業績が落ちたら吹き飛んでしまう。少なくとも10%はあげないといかん」

「野球は9人でやるものではない。ベンチに入った16人でやるものだ。必ず代打やリリーフが備えている。経営もいっしょで、金と人は余裕が必要。とくに人はバックアップが必要で、その人間にしかできないとなると、その人間は傲慢になって成長しないし、組織も乱れる。すべての人間にピンチヒッターがいることで、強い経営もできるし、その人を不幸にすることもない。だから、店も多い方がいい。人が育つ」

ゼロから150億円の事業を作り上げたM社長の体験から滲み出る言葉は説得力がある。

盛和塾(稲盛さんの経営哲学を学ぶ経営塾)に参加する経営者は熱心な方が多くって、「稲盛教」なんて揶揄する人もいるけど、その実、こうして先輩経営者が経験から学んだエッセンスを後輩たちに語って聞かせたり、迷ったり、行き詰まった時にアドバイスをしあう学びの場だ。もともと大勢で行動するのが苦手なボクだけど、この会だけは例外でいつも新鮮な気持ちで学んでいる。

稲盛さんの方に目をやると、ずっと人垣ができてみんな熱心に耳を傾けている。

頃合いを見計らって、ごあいさつに言った。

「2年前にロサンゼルスで発表をさせていただいたライトハウスの込山です!」

「おぉ、元気でしっかりやっとるか!商売はどうや」

柔和な笑顔で握手をしてくださった。

「はい、この不況でたいへんですけど、しっかりお客さんは増えています。必死で踏ん張ってます!!」

「そりゃ、ええこっちゃ。がんばってな!」

そう言って背中をさすってくれた。1分くらいのやりとりだけど、5000人もいる塾生の中でボクを覚えていてくれて、そのうえ温かく励ましてくれた。感激したボクは窓をそのまま開いて月面宙返りをしそうになった。

懇親会がお開きになって、山の中腹にある料亭からの大型バスの帰路、先頭の席にひとり座っている稲盛さんに、ボクがどうしても教えてほしかったことを訊ねに席を立った。

座席の通路に膝をついて、

「どうしても教えてほしいことがあるのですがよいでしょうか」

稲盛さんを見上げると、変わらぬやさしい目で、ここに座りなさいと隣の席に導いてくれた。

「私の業界にもたくさんの競合他社がいます。ライバルを廃刊に追い込むくらいの気迫を持たねばならないという方もいますが、ライバルを憎むことすらできない。自分や組織を奮い立たせるために、意識して口にするのだけど、自分の中で折り合いをつけることができないのです。私は経営者として甘いのでしょうか」

稲盛さんの眼がメガネの奥で光ったような気がした。

「まわりがついてこられないくらいに、結果として潰れてしまうくらいにやることは良いんです。ただし決して卑怯な手を使わず、フェアーな勝負でなくてはならない。誰にも恥じない経営でとことんやりなさい」

そんな内容だったと思う。“思う”というのは、もう頭がポーッとなってしまって、一言一句キチンと覚えていないのだ。ただ、再び握手して背中を撫でてくれた稲盛さんの手のひらから、熱がすっと入ってきて、これまで未完成のままのパズルが完成したような、そんな吹っ切れた気持ちになれた。もっと言うと、コンピュータの容量で例えるなら10倍にアップグレードされたような、そんな感覚を覚えた。

その夜は、この感触と言葉を忘れないように、ひとりホテルのバーで深夜まで波を眺めて過ごした。