親父は磨き砂

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 長患いしていた妹(弟の嫁)の父親が亡くなり、沖縄でお通夜や葬式で走り回っている弟から電話が入った。

「突然親父から電話が入ってな、沖縄に着いたって。空港からやで。

もちろん、そのことは親父にも電話で知らせたけど、来るとか一言もなかったから慌てて迎えに行ったわ。

なんちゃ(何にも)言わんとふつう来んやろ。あいかわらず、コミュニケーションが取れん人やわ。

それでもお線香をあげてくれた時、ありがとうって思たよ。よぅ来てくれたって。

でも、そこまで。

後は朝から晩まで酒びたりや。

飲み過ぎでトイレ近いから、みんなが乗る移動のマイクロバスにも乗せられん。もう一台別の車で送迎しとんで。VIPとちゃあうんやから勘弁してほしいわ。

もう、みっともなくて、美樹ちゃん(妹)の親戚に恥ずかしい。(ふ〜)」

弟のため息が太平洋の海底ケーブルを通して聞こえてきた。

一瞬、子どもの頃、失業中の親父が家でごろごろしているのを友だちに見られたくなかった自分を思い出した。

「それ、今に始まったこととちゃうやろ。父ちゃんはオレらの磨き砂や。修行修行」

「また人ごとみたいに。(ふ〜っ)

でもビックリするくらい顔色は良うなったの。(笑)」

「ホンマじゃ。ありがたいことやぞ。元気なんやったらそれで良しとせな」

「まぁ、確かにのぅ」

受話器を置いてしばらく、この家庭環境というか親子関係、弟がいるおかげでずいぶん救われてるなあと思った。(ヤツも思ってるかもしれないけど)

それにしても親父はボクら兄弟を鍛えてくれる。