ホンダ・スピリッツ

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 今回、ライトハウスとアロハストリート(ウィンキュービック社)の共催イベント第3弾で、ハワイで初めて小林三郎さんの講演会を実現した。テーマは「ホンダ・スピリッツ:イノベーションが生まれる環境・風土の構築」。おかげさまで大成功に終わった。

講演後は、「ライトハウスのおかげで、これまでハワイでは聴けなかった良質な講演にふれられるようになった」「勇気が出た」「やる気になった」「経営を見つめ直そうと思った」「会社が大きくなって、何のイノベーションを生む努力をしなかったことに気づいた」等、たくさんのご意見や感謝の言葉をいただくことができた。

ロサンゼルスでは昨年の9月に講演をしていただいたのだけど、小林三郎さんは(元)本田技研の主席研究員で、今や世界標準となっている(ホンダ式)エアバッグの開発者だ。現在は中央大学院・戦略経営研究科の客員教授で、年間に100回を超える講演活動でホンダ・スピリッツを世に伝えている。

ボクが人生で聴いた講演の中で、京セラの稲盛さん以外の方では、吉田ソースの吉田会長と並んで「2大・最も魂を揺さぶられた講演」だ。

本当に素晴らしい内容なので、ボクの解釈とともに学びをシェアしたい。

(なお、ハワイのみなさんには朗報です。吉田会長に続く大盛況ぶりに、小林三郎さんは今年11月、吉田会長も来年2月前後に追加講演の予定です。ぜひみなさんの家族や仲間や社員さん、ライバルの会社の人も誘ってご参加ください。きっと聴いた人の数だけハワイが元気になります。いっしょにハワイの日系社会を元気にしましょう!)

さて本題。

本田宗一郎さんは、京セラの稲盛和夫さんと並んでボクがもっとも尊敬する経営者で、近代日本を代表する経営者だ。

お二人は驚くほど思想や哲学、生き様が一致していて、限りなく無私(利他)の人だ。

総一郎さんは40を過ぎて本田技研を34人の社員で創業した。

毎朝ミカン箱の上に立って朝礼して社員に「世界一になる」と言い続けたそうだ。

実際に24年後にホンダはバイクで世界一になった。

宗一郎さんは、「哲学」なき行動(技術)は凶器であり、行動(技術)なき理論は無価値であると説いた。

そして、一貫してイノベーション(革新、創造)の大切さを訴えた。

仕事とは、オペレーション(執行)とイノベーション(革新、創造)の2つから成り立っている。

オペレーションは「論理的に正解を追求し続けること」、イノベーションは、「ユニークな本質の発掘」だ。

業務の95%を占めるオペレーション(執行)に対して、イノベーションは数パーセントに過ぎない。成功率も前者は常に95~98%で、後者は10%に満たない。

残念ながら多くの日本企業は、90年代前半にバブルが弾けて以降、「コストダウン」と「効率化」しかやってこなかったから、ソニーがかつての輝きを失ったように新しい価値を生み出すことができなかった。

「革新」と「改善」を混同しがちだけど、

「改善」は、データを集めて論理的に分析をすることでできるけど、そこに「差」は生まれても、「新しい価値」や「ちがい」は生まれない。

「革新」は、哲学(Philosophy)、コンセプト(Concept)、想い(Spiritual Belief)の3つから生まれる非論理の世界なのだ。

その中で最も大切なのは、強い「想い」。あきらめない、夢を追い、人を愛する強い信念だ。

これ(革新)について稲盛さんは、

「潜在意識のまで透徹する強い持続した願望を持つ」「人間の無限の可能性を追求する」「チャレンジ精神をもつ」「開拓者であれ」「もう駄目だというときが仕事のはじまり」「信念を貫く」

によって初めて生み出せると説いている。

イノベーションを生むには「本質追究」が欠かせない。

企業の、事業の、個人の目的は何なのか?

「企業の目的・存在意義」は、収益を上げる事ではなく、世の中に何の価値を提供するか、だ。

収益は「結果」で目的ではない。「目的」を見誤るから、GMは車作りがお留守になり、エンロンは粉飾決算をして、リーマンは欲が過ぎ、船場吉兆は食べ残しを出して、潰れてしまった。

「目的」と「手段」をキチンと理解しなくてはならない。

例えば、機械性能を向上させることも、コストダウンをすることも、重量ダウンも、「A00」(本質目的、夢)ではない。手段に過ぎない。

宗一郎さんは「本田技研は、技術を研究するところではなく、人間を研究するところだ」と説いた。

人を研究し、「人が求める10年、20年先の主要な時代価値」を追求するところだと。

技術は手段であって、目的は人が求める新しい価値の創造なのだ。

ホンダで交わされる質問はたった2つ。

「どこがホンダらしいんだ(マネをしない。ミニトヨタになったらホンダはいらない)」

「それは世界一か」

それを「一言」で言えなくてはならないそうだ。(素人にわかりやすく説明できなかったら、わかっていないという事)

ボクはその言葉をライトハウスに置き換えた。

「どこがライトハウスらしいんだ」「世界一になれる事か」

講演が終わった今もずっと考えている。一生、自分に、社員に、問い続けていく事に決めた。

それ(価値コンセプト)を導きだすのに、ホンダには「ワイガヤ」という文化がある。

三日三晩郊外の宿舎にこもって議論をし続けるのだ。

発言に、どこかで聞いたような話は許されない。その人の原体験から来るユニークな話でなくてはならない。1つのコンセプトを導くのに、1人が100200ものコンセプトを捻出してひたすらに正解のない議論をぶつけ合う。それを年に何回も実践する。金と時間とエネルギーをそこに掛けるのだ。

実は京セラでも「コンパ」という文化がある。仕事を離れて、夢を語り議論をぶつけ合い、ベクトルを重ねていく文化で、世界中で人種を越えて実践されている。

この話を聞いて、ライトハウス式の「ワイガヤ」「コンパ」を今思案している。

ライトハウスが何のために存在するか、未来に提供すべき新しい価値は何なのか、オペレーションではなく、イノベーションのための議論の機会を今年後半から導入するのだ。

小林さんは「イノベーションは若いヤツの方が豊富だ」「すぐに答えを与えてはならない。徹底的に考えさせるのだ」「自分で考える習慣を若いうちからつけて考える集団になるのだ」とアドバイスしてくれた。

もうひとつ興味深いアドバイス。

10人中9人が賛成するような案では遅過ぎる。9人が反対する中に「ダイヤ」はある。イノベーションは最後はひとりで決めるものだと。

そしてオペレーションでの失敗は許されないけど、イノベーションに失敗はつきもの。

若い人にチャンスを与えろ、若い人が元気な会社は必ず伸びると。

うちはもっともっとメンバーが考える習慣をつけて、失敗も含めて機会を与えなくてはならないと実感。

やれることはまだまだありそうだ。

宗一郎さんの経営観・人生観が伝わってくるエピソードを3つ。

 

1)本業以外手を出さない

宗一郎さんは、銀行や証券会社からどんなに勧められても、本業以外、土地も株も投資もしなかった。そのおかげでバブルが弾けてもダメージが少なく回復が早かった。

これに通じる話が、トヨタやGMは生産性(効率)重視で、アメリカの大型車の工場はすべて専用工場だったため、燃料が高騰して大型車が売れなくなった途端に潰しがきかなかったけど、ホンダの工場はコストが割高でも、大型車から小型車まですべての車種の生産に対応できるように作られていたためダメージがあまりなかった。

恥ずかしながらボクは、2030代まで儲け話に飛びついてしばしばヤケドをした。20代の終わりには後始末に家を手放した事もある。おかげでその大切さが身に沁みてわかる。追いかけるのはお金ではなく、夢とか新しい価値なのだ。

2)現場を回る

宗一郎さんの若い頃は、しゅっちゅう社員をぶん殴るくらいに怒ったけど、愛情が深かったからみんなが「おやじ」と呼んで惚れてついていった。そして年中現場に足を運び社員の肩を叩いて回った。

実はボクは以前に、公開経営問答の席で、稲盛さんに「離れた場所で仕事をする社員たちにどうやって熱を伝えたら良いのでしょう」と質問したことがある。即座に「アンタが現場を回らんで誰が回るんか。当たり前の事を訊くな!」と雷を落とされた事がある。涙がちぎれるくらいおっかなかったけど、ボクの人生の宝物にしている教訓だ。

3)環境対応

90年代に日本に進出したメルセデス・ベンツが、当時としては画期的な、環境に配慮したテレビコマーシャルを流した。その内容は「私たちの工場では、大量の水を使いますが、環境に配慮して元のキレイな水にして川に戻します」というメッセージ性の強い広告。ホンダの幹部が慌てて「うちは大丈夫なのか」と調べさせたところ、どの工場でも「宗一郎さんが工場を作る時に、地元の大切な水を使わせていただくから、必ず元の水よりきれいにして戻すように言われています」と、すべての工場でメルセデス以上の環境対策をしていたのだそうだ。それもそのコマーシャルが流された20年以上前の1964年当時から。

ボクはこのエピソードにふれて涙が溢れて止まらなかった。どこで切ってもブレない。経営は、小手先(テクニック)でも利益でもない、「愛」なんだとやっと腹に落ちた。

小林さんはさらに付け加えた。

「企業で100年残るところはそんなにないでしょう。なのに愛をベースにしたキリスト教もイスラム教も2000年残っているでしょう。それが愛なのです」

「トップも社員も心がキレイじゃなくては駄目です。ピュアな集団は強いのです。偽物はメッキが剥がれて船場吉兆になってしまうのです」

「人間はもともと気高い(Nobleness)のです。収益の話も大切だけど、夢を3回語る間に1回くらい話せば良い。世界の人々に貢献しようとか、子どもや孫の世代に青空を残そうという夢や想いこそが活力の源泉になるのです。そんな想いに人がやる気になった時、アウトプットはかけ算になるのです」

そして最後に、ホンダ文化とは、

・高い自由度(平等/学歴無用/ミニマム・ルール)と、

・熱い議論(前向き/ワイガヤ)と、

・哲学・本質的な高い志(本質追究/自分の思い・志/コンセプチュアル/絶対価値追求/高い目標)からなる、

「ノリのいい知的興奮集団」だと締めくくった。

 

変革しよう。目指してみよう。ライトハウスも。

「ノリのいい知的興奮集団」を!