飛行機物語

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飛行機に初めて乗ったのは二十歳のとき。

一年間の航海実習を終えて、東京から高松の実家に帰る飛行機だった。それまでの数少ない東京、あるいは遠方からの帰省、長距離移動はもっぱらヒッチハイクだった。

飛行機に縁のない少年時代だったけど、アメリカに移住してからは、国内外の出張や旅行で少なくとも200回以上は乗っただろう。客室乗務員の代わりに、あの離陸前の交通整理みたいな案内もできそうだ。

今回は、そんな中から飛行機にまつわるアホバカエピソードを紹介したい。

その1:ユナイテッド物語

トップバッターはアメリカを代表するエアライン、ユナイテッドでのエピソード。

一回破産して、今ではずいぶん改善されたけど、うんと昔のサービスは強烈だった。例えば、お客が溢れかえっていても、ランチ時になるとカウンターひとつかふたつ残してみんないなくなった。列の後ろのほうの人は遅れそうで何人も気絶していた(これはウソ)。組合が強過ぎて、末期はコントロールが効かなかったのだね。

その頃にライトハウス主催のコンサートで南こうせつさんをお招きしたことがあるのだけど、カウンターのオバサンが最悪で、こうせつさんを一本指をピコピコ折り曲げて呼んだり、曲げた指で指差したり、まぁ大切なお客さんに対して、ムチャクチャな対応で悶絶しそうになった。幸いこうせつさんは実に温厚な人柄で、むしろそのハチャメチャぶりを笑ってくれたけど。オトナなのですね。

まだある。

サンフランシスコ出張から帰ってくる時、仕事が早く終わって一便早く乗れそうだった。

「本当は午後5時の便だけど、もし空席があったら一便早くしてもらえますか」

「オッケイ。ガッテンだ。任せとけ!」

ラッキー!

幸いにも一便早く乗ることができたけど、預けた荷物は一便後に堂々と到着した。

人間だからミスはある。

が。あろうことか、もうひとつオチがあって、その次の出張でも同じように荷物だけ遅れて到着した。

みんないなくなって、ただグルグル回る荷物引き渡しのコンベアをいつまでも眺めながらデジャブかと思った。

そんなユナイテッドだけど、ロンドン出張の帰路、すっかり出発時刻を間違えたにもかかわらず、カウンター嬢の必死の対応で、DC経由で予定の日にロサンゼルスに帰ってくることができた。翌日に重要な会議があったから本当に助けてもらった恩もある。

このエアラインにはこれからも物語を紡(つむ)いでくれることを期待している。

その2:喫煙席背中合わせ事件

以前にも書いたけど、禁煙席に座っていたら、真うしろの席のネクタイが煙草を吸っているので、立ち上がって即注意したら、客席乗務員が走ってきてこう言った。

「すみません。ひとつ後ろの席から喫煙席なんです」

到着までが気まずいこと。

今では全面禁煙になったけど、昔はそんな歪(いびつ)なカタチで両者の折り合いをつけていたのだ。

余談だけど、煙草と言えば、唯一日本出張で憂鬱なのが煙草の煙。

「よろしいですか」と言われて、「カンベン願おう」とか「まかりならん」とは言えないもんなあ。

その3:荷物だけ旅立ち事件

某エアラインで成田に到着したら「コミヤマヨウイチ様」とプレートを抱えた紳士が待っていた。

まさか、オレはにわかに出世したのだろうか、カアチャン、オレ頑張ったよ!

咳払いをして「私がコミヤマヨウイチです」とゆっくり名乗りを上げたら、「コミヤマ様のお荷物が手違いで現在香港に向っています。たいへん申し訳ありません」という話だった。出世は簡単ではないと学んだ。

その4:荷物盗難事件

荷物の話はまだある。良く利用するエアラインの話だけど、預けた荷物が出て来なかったことがある。たぶん盗まれたのだろう。これは仕方がない。すべてのエアラインに同じリスクがある。

感心したのは、そのエアラインのスタッフが、その後一週間毎日ホテルに電話をくれて、空港やJR周辺の警察からも、荷物が見つかっていない旨の報告してくれた。

一張羅のスーツやシャツ、お気に入りのネクタイを詰めたバッグだったので、涙がポロリと零(こぼ)れそうだったけど、それ以上にその会社の誠実なフォローに胸を打たれた。

「あなたの責任でもないのに毎日誠意をもってフォローしてくれてありがとう。今回のことはイタかったけど、これまで以上にあなたの会社のファンになりました」

この一件から、改めてふたつのことを学ばせてもらった。

ひとつは、トラブルやクレームがファンを作るキッカケにも成り得ること。クレームこそ関係構築のチャンスだ!

もうひとつはテクニック的な話だけど、出張の重要な資料や、バックアップの利かないものは必ず手荷物で持つこと。できるだけ衣服のローテーションを駆使して、手荷物で持ち込めるボリュームに留めることをが大切だ。どうしても預けるなら、間違えようがないように、バンダナやベルト、大きな紙をガムテープで貼るなどすると良いだろう。

飛行機にまつわる失敗や笑い話は旅を重ねていると自然と生まれる。

またたまってきた頃に披露してみたい。

まもなく日本だ。