太平洋のうえで

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目が覚めたら、成田まで約5時間、眼下には雲の切れ間に群青色の太平洋。
モニターの地図によると間もなく日付変更線を越えようとしている。

離陸前に摂った喉薬のシロップが効いて、離陸を待たずに熟睡した。
そう、恥ずかしながらまだカゼを引きずっている。

冬休み明けにひっくり返って、二週間おいて再びダウン。この時は悪寒と嘔吐でヘンな病気にでもなったのかと心中穏やかではなかった。

うまい具合(?)に重なるもので、日本からビジネス書のベストセラー作家4名をお招きしての、ライトハウス創刊20周年記念セミナー(第一弾!)と、今回のダウンが重なり、イベント直前に這うように会場入りした。立っていても冷凍庫の中で宙づりになったような感覚で、病床で練習した会の冒頭の代表挨拶も情けないことに3%の出来だった。いかんですね。

幸いイベントそのものは大成功で、参加費が85ドルと高額であったにもかかわらず、150人の定員が溢れたうえ、参加者へのアンケート結果は5段階評価で平均4ポイント以上が90%と、満足のいく結果に終わった。

それが先週。

そのまましばらくは養生してコンディションをこしらえれば良いものを、スタートダッシュの遅れを取り戻そうと昼に夜(新年会)にまた張り切って、出張直前に再び体調を崩してしまった次第。

自分でもまだ信じられない。

以前はどんなにムリをしても一晩ぐっすり眠ったら復活したし、何よりカゼをもらっても、1シーズンで2回も3回もダウンするなんてありえなかった。認めたくないけど去年くらいからジムに行ったら疲れが残るので、ラグビー部のようなハードなトレーニングからストレッチ中心の軽めのメニューに変えた。食べる量も人並みになってしまった。

ボクが認めようが認めまいがカラダが変化しているということだと思う。

それは潔く認め受入れたうえで、どう自分自身のパフォーマンスを上げていくか、またまわりに委ねてゆくかを考える時期なのだ。先はまだまだ長いしね。

ふとスタッフを思うと、ライトハウスの平均年齢が今年で37くらいになる。LCEも38くらい。若い会社と思っていたけど世の中的にはそうでもなくなってきた。

むしろ、今どきのベンチャー企業は平均年齢20歳代がザラというから「オトナの会社」と言って良いかも知れない。

みんないっしょに歳を取っていくから静かな高齢化に気づかない。

ついこの間(のような感覚)、新卒で入社した青木くんも川嶋くんも立派に30代後半のオッサンだ。(余談だけど、サンディエゴの大野くんと滝井くんは入社した時から若いけどオッサンだ)

ボクにとって社員は全員(年上でも)が弟や妹、息子や娘のような感覚、親分子分の気持ちで接している。同時に親御さんからお預かりしていると思っている。

そんな感覚だから、メンバーが頑張っているのを見ると、ついいつまでも頭を撫でたいような、背中をさすりたいような(ときに叩いたり、殴ったり)気持ちになるけど、相手はそんな歳でもなく、立派なオトナなのですね。実際まだやってるけど。

20歳代の頃、目をかけてくれている上場企業の創業社長に問われた。

「込山くんの会社の強みはなんだ」

「若さです。それと体力かなあ。」

「バカモン!若さなんて今だけの話だろ。会社の強みというのは、時期とか時代に関係なく通用するモノだけを言うんだ。まったくキミは元気ばっかりで話にならん。強みを作れ。他にはない武器を作れ」

目からウロコが落ちた。

正直、アドバイスを活かして武器が作れたかどうかわからない。けど、遮二無二がんばり続けることだけは継続した。ヒトより才能で劣るボクには努力しかない。

新年の抱負(のひとつ)を「部下育成の鬼になる」としたのには理由がある。

これはライトハウスに関してだけど、ひとつはボクの分身を何人か作っておかないと、万が一にも今ボクがポクッと逝ってしまったら、今の幹部メンバーではいかにも心許ない。

ボクが補欠で、4番バッターがゴロゴロいるLCEとそこがちがう。(うちの4番はみんなおっちゃんだけど)

ライトハウスの幹部メンバーは、仲は良いけど、リーダーシップとそれを支える人望がまだまだ発展途上だ。磨きをかける余地がものすご〜く残っている。

決してボクが創業者であることに甘えているわけではないけど、ボクならまわりが目を瞑ってくれることも、ボクの後を担う者にはまわりの目もキビシイだろう。とくに何か新しいチャレンジ、あるいは失敗に対しての風当たりは強いだろう。

ボクだったらこれまで失敗しても(さんざんしたけど)「すべて必然。これも勉強」で済ませたことが、下手をすると責任まで問われるだろう。

だから、後を担うトップや幹部は、ボクなんかより200%仕事ができて、500倍謙虚で驕らぬ人間性でなくては務まらないのだ。厳しいけど二代目以降の定めだ。

だけどちょっと待てと。

最初から立派で優秀なトップはいない。トップは本人の努力はもとより、まわりが育てていくものでもある。なにかチャレンジする時は、議論を尽くし、入念に仕込みをしたら、あとはアクセルを踏んでそれをみんなで支えたら良い。

何か重要なことをやる時は多数決なんか取ってはいけない。トップが決めることだ。

こんな小さな会社で、なんだか遺書みたいだけど、残ったメンバーの仕事は、新しいボスの「評価」でも「非難」でもない。むしろ自らが犠牲を払い、ボスを愛し、支え、足りないところを補わなくっちゃならない。ひとりひとりが「会社の創り手」だ。

部下育成の鬼になるもうひとつの理由。

ボクはこんなふうに考える。

お金がすべてではないけど、一方で、お金で解決できることも世の中にはたくさんある。何かの時に高度な医療が受けられる。何かの時に、人を物質的に援助できる。

心の満足だけでなく、歳を重ねるほどにスタッフが物心の両面で豊かになるにはどうしたらよいか、いつも考えている。

あくまで単純計算だけど、今スタッフが貰っている収入を倍にしようと思ったら、人数や経費をそれほど増やさずに、売上を倍にする必要がある(人数も経費も倍になったのでは何だかわからない)。もちろん品質を上げながら。

言い換えると、売上が微増微減のままでは、人件費にかけられるバジェットも微減微増。生涯賃金が上昇することは難しい。

その前提のもと、今例えば38歳のスタッフは10年後に48歳になり、20年後には58歳になる。

家族も増えるだろうし、生活の質を上げたい。若い時や社歴の浅い時代は仕方がないが、いつまでもルームメイトをさせたくない。

経営陣は今から(会社とベクトルを重ねてついてくる)メンバーの老後のことをしっかりと考えなくてはならない。

ひとつの目安として、足りない分は多少親の援助を仰いだり、共働きをしてでも、いったんの定年の60歳前までに、家なりコンドミニアムなり、持ち家の支払いをすべて済ませて、突出した実績と言わずともマジメに30年働いたら年金の積立が50万ドル以上、より重責を担ったものは実績に伴いさらに多く、その先の長い人生のための蓄えを作っておきたい。実際、ライトハウスでは、利益がろくに出ない頃から、本人と会社がいっしょになって積み立てに取り組んでいる。

アリとキリギリスではないけど、将来メンバーが物心両面で豊かな人生を送るためには、同じ努力、ふつうの頑張りでは理想に終わってしまう。

じゃあどうあるべきか。当然ながらボクらの体力は落ちていく。

今を100%とするなら、10年後には80%、20年後には60%に落ちて当然だ。ボクは昔の名前や実績を尊重してもそれだけでは食わせない。演歌歌手ではないのだ。

体力が落ちていく中で、2倍のパフォーマンスをあげるには、(38歳時点よりも、48歳であれば今の250%、58歳で333%)それ以外の部分で補わないと(成長を遂げないと)追いついていかない。

営業であれば企画提案力や、広告主に偏らない豊富な人脈。もっと言うと、潜在的な広告主が気づいていなかった事業(強み)を導き出し、結果として広告掲載に結びつけるくらいの知恵と実現力。メンバーには常識の殻を破って、世の中になかった価値を生み出してほしい。そして(自分自身に言っていることでもあるけど)利他の心で、徳を重ねることだと思う。

制作だったら、魂を揺さぶるような説得力のある技術と営業サポート力。同じスペースの大きさでも広告効果はまったく異なる。単に技術面だけではなく、生活者のハートに火をつける企画力、提案力、バランス感覚が求められる。これは記事のレイアウトも同様で、いかに記事ごとに興味を引き読ませ切るか。制作の腕によるところが大きい。若者の活字離れ、読者の高齢化、時代に則した微調整も求められる。

編集で言うと、同様にハートを揺さぶり、時にとろけさせるような熱い血の通った記事、読者の人生のリスクを避けて通すくらいの役立つ記事を作り続ける情熱とチカラを身につけなくてはならない。加えて、そっくり営業について書いたことも実践せねばならない。

並大抵のことじゃないけど、このメンバーなら必ずできると思っている。
長い時間の中で、糊しろ(残りの伸びる余地)によって、上下の入れ替えもあるだろうけど、個人のこだわりは捨てて優秀な者が上に立てば良い。ボク自身、ボクより優秀なリーダーが出てきたら、後ろに下がってあまり口出ししないでいようと思う。「優秀」とは技術や才覚ではない。人徳の持ち主だ。これはボクの通う稲盛さんの経営塾で学んだ。

話は戻るけど、そのためには、メンバー全員が日々脳味噌の汗をダボダボにかいて、常に「価値」を創造し続け、それを掛け合わせることで、かならず体力や時間の限界をはるかに超える価値や成果を生み出すことができる。

あとは観念的な心配はせず、ただ笑って自分たちの未来を信じたら良い。

と、いうことで、今は蹴られたらそのままへたりそうなボクだけど、出張から帰ったらいよいよ「育成の鬼」になろうと思っている。

みなのもの、くれぐれも覚悟しておくように。