二等航海士の加藤さん

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もうすぐ11時。身内で祝った感謝祭の余韻に浸りながら書斎にひとり。

食器洗いや片付けは若者たちがキレイにやってくれてキッチンはピカピカ。

ボクもそうだったけど、プライベートのヒトの集まりではしっかり楽しむ一方で、若いメンバーや新米が率先して片付けをするのが基本中の基本だと思っている。もちろん、ホストの細君が必要ないというのを押し退けてまでする必要はないからケースバイケースだけど。

友人知人の家の泊まる場合も同様で、ホストの奥さんが気を使わない程度に、使ったタオルを畳んでおくとか、ベッドメイクをするとか、洗面所のまわりはサッとタオルで拭いておくくらいはしておきたい。タオルを畳まないまでもホテルも同様。

この習慣は商船学校で学ばせてもらった。

船では「(自分が)乗る前よりも美しく」という言葉がある。加えて、何がどこにあるかすぐにわかるよう公私に整理整頓が求められる。

たぶん、船の世界では常に「死」が隣り合わせだから、万が一の時に必要なものを最短時間で取り出したり、避難の時に、不要なものが脱出の進路を遮ったりすることがないように常に整理整頓しているのだろう。

卒業前の一年間の航海実習時代、夜の当直が終わって、同じ部の10数人で小さな宴会をやった。酒も回り、どうせ翌朝起きたらそのまま掃除の時間だから「明日、掃除の時に片付けよう」とそのままの状態で解散した。

翌朝、仲間が血相を変えて呼びにくる。慌てて宴会をやった教室に行くと、二等航海士の士官が、散らかったまま放置された宴会ゴミを前に、顔を真っ赤にして怒っている。

そこでボクは、全員を代表してチカラ一杯殴られた。

顔が焼けるように熱かった。

その時は、逆らって下船でもさせられたら堪らないから、神妙な顔でやり過ごしたけど、腹の中では、むしろ自分ひとり殴られたことに対する逆恨みや、プライドを傷つけられた思いの方が強かった。

そしてその若い士官が、心なしか目のまわりが赤く泣いているように見えた理由がわからなかった。

社会に出てから、非常識であったことがようやくわかった。

それからウンと後に人を指導する身になって、どれほど恥ずかしいことであったか心底わかるようになってきた。

叱られるより叱る方が100倍も辛い。

本気で怒ってくれる人の存在がどれほどありがたいか。目をかけぬ(期待せぬ)ものには怒りもせねば、真剣につき合いもしないのだ。

叶うものなら加藤さんに感謝の言葉を伝えたい。