練れない兄

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底冷えする剣道場から。

今晩はカミさんが学校の用事でいないので、夕方6時過ぎには仕事を切り上げて、自宅で待つ息子をピックアップに。

息子が小さな手で握った、梅干しの入ったおむすびを「パパ、ありがとう」とボクに持たせる。それから「まだ熱いよ」とスープをよそってくれた。

今朝は5時前に目が覚めてそのまま机に向かい、出社から夕方まで来客とミーティングが途切れずに一日が暮れた。時計を見る間もないくらい一日早かった。こういう一日が好きだ。

スープの湯気にホッと一息。

午後に新刊のサイン会のポスターの撮影に「ロス日記」(ライトハウスの人気コラム)の著者阿木先生が来てくださった。

「キミは若いと思っているだろうが、いつまでも23、4じゃないんだぜ。体力にまかせてやっているけど、ぶっ倒れることもある。何があってもおかしくない歳なんだ。そのときのキミのバックアップ態勢も考えておかなくっちゃならんぞ」

コーヒーを片手に少し怖い顔で阿木先生がおっしゃったアドバイスを思い出す。

「春先に測った体内年齢は21歳でした」と返したかったけど、口を噤(つぐ)んで、かわりにまっすぐ「はい」と応えた。素直に受入れなくてはならない。

こんなところでぶっ倒れている場合ではない。ぶっ倒れるわけもない。

そう思いながら、昼間お客を連れて行った時、行列ができるほどてんてこ舞いの中、気を利かせて一口カツをさりげなくオマケで出してくれた弟の顔が過(よぎ)った。

紆余曲折を経て、ようやく二つの自分の店に行列ができるようになり、本来の笑顔を取り戻した弟がいる。

あのバカの営業力があったらライトハウスはもっと勝負ができるのに。

と、弟の店の繁盛を喜ばねばならぬのに、文句のひとつも言いたい気分の、まだ練れていない兄がいる。