SF−LA 500マイル・自転車旅行記(その4)

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 旅の4日目。海鳥の鳴き声で目が覚めた。

ここはモントレー。昨夜は暗くてわからなかったけど、海が近いようだ。

って書くと優雅だけど、腰痛で寝転がって書いている。両手両足も筋肉痛で鎧をまとっているみたい。いてえ。

昨日は自転車の2日目。走りました。2日続けて70マイル(110キロ強)越え。連日10時間以上自転車の上にいた。

アメリカ自転車縦断を終えたばかりの知人の安部さんから、

「サンタクルーズからモントレーまでは、自転車で走れるルートがあっちに行ったり、こっちに行ったり、フリーウェイを挟んで右や左、いちご畑の真ん中を本当にこっちでいいのかと心配するようなところもありました」

と、事前にアドバイスを受けていたけど、いや凄まじかったし、認識が甘かった。

実は昨日の最終目的地は、モントレーの先にある街カーメルだった。

カーメル。

迷うくらいオシャレな飲食店やワイナリー、小物や骨董の店が軒を連ねるしっとり美しいオトナの街だ。

ロサンゼルス以外で住んで見たいと思ったのは、シアトルとサンディエゴ、そしてこの街くらい。

ここで話を昨日の朝に戻します。

テントからカーメルまでの距離は、すでに60マイルを切っていたので、朝は9時半にゆっくり出発。

予定通りサンタクルーズには正午前に到着。

玄が頻繁に膝を揉み出したので、午後2時まで念入りにストレッチをしてたっぷり休息を取った。

Googleマップによると、カーメルまで残り40マイル。

4時間くらい掛かるとして、6時に着いてシャワーをまず浴びよう。先に洗濯も済ませて、あのワイナリーでテイスティングをして、それからお店を見て歩いて、今夜はこのあたりの産地のワインでイタリアンでも食べるとするか。

そんな優雅な作戦を、午後の2時の時点で思い浮かべていた。

余談だけど、玄は前を走る僕の頭をハンバーガーに見立てて、早く走るモチベーションにしたそうだ。似るもんだ。

休憩を終えて、ローカルの道から1号線に戻ったところで、作戦がほころび始めた。

いつの間にか、道がフリーウェイになって侵入できない。。

Googleマップで周辺の道を探しても、ローカルのくねくねした道ばかり。

指でマップをたどっても、複雑すぎて途方もなくて、さっぱり目的地には繋がらない。

安部さんの言ってたのはこのことか。

少し気持ちが重くなる。

が、いかんいかん、目的地に着くことが目的じゃなく、旅そのものを味わい尽くすことが目的なんだ。風景も、想定外も、ピンチも、アクシデントもすべて楽しまなくっちゃ。

マップで、より南方向に行けそうな道を見つけては、頭にイメージして、通りの名前を暗唱しながらペダルを踏む。

ふつうの民家や学校があるローカルの道で、それを頻繁に繰り返しても、なかなか目的地との距離は縮まない。

たまに真っ直ぐ太い道を発掘して喜んでいると、山の麓で行き止まり。

中には、その後の迂回が気絶するくらい大回りだったりする。

例えて言うなら、横浜から東京に行くのに、モスクワを経由する感じ。もう、意味不明なのだ。

時々振り返ると、玄が豆粒みたいに遠くにいる。膝の痛みが大きくなってきているようだ。

気がつくと時計は6時どころか7時を回っている。空は雨雲が垂れ込め、今にも降り出しそうだ。

おまけに昨日より陽が落ちるのが早いのではないかと思ったら、サングラスを外してなかった。

気が遠くなるような迂回の後に、マップ上の1号線の色が変わっているのを発見。

やった。1号線が走れる!

ペダルが軽く感じられる。目的地がみるみる近くなる。

が、残り10マイルを切ったところで、道は前触れもなくフリーウェイに変わった。短い。

それもパトカーが丁寧に教えてくれた。ありがとうごくろうさま。

すっかり暗くなったローカルの道を再び走る。

道の両側には、ホテルやレストランがいくらでもある。でも、昨日の失敗があったから、予めExpediaでカーメルにロッジを予約済みなのだ。裏目大会。

もう止まりたい!

と、水戸黄門の歌がこだまする。

“泣くのがイヤなら、さ〜あ歩ぅけ〜”

深い歌だったんだ。。

「晩ゴハンの後、バニラアイス食べていい?」

足が痛かろうに、明るく振る舞う息子に気持ちが再充電。

「ひとくち食わせろよ」

互いに笑みがこぼれる。

繁華街はやがて暗くなり、一本道を真っ直ぐに進むと、勝手にフリーウェイに侵入していた。

路肩が狭くて後戻りするのも危ない。すぐ横を猛烈なスピードで車やトラックがビュンビュン通り過ぎていく。

わしゃ何やっとんじゃい。。

自転車を降りて、玄を前に歩かせる。短い時間がとても長く感じられた。

次の出口を降りると、モントレーだった。

落ち着いてGoogleマップを確認する。

すぐそこ(6マイル)なのに、山に囲まれたカーメルにたどり着くには、西に出て17マイルドライブに迂回して行くしか選択がなさそうだ。

推定25マイル前後。時計は9時。あと3時間走れるか、走る意味が見出せるか。

この時点で、断念。じゃなくって作戦変更。

今夜はモントレーで泊まる!

明日はモントレーの水族館を見物して、17マイルを優雅にサイクリングして、カーメルを午後からゆったり楽しむ!

最初に目に入ったトラベロッジにチェックインして、順番に熱いシャワーを浴びた。

すでにどこの店も閉まっているので、ふだんは非常事態以外に行くことのないデニーズに行った。まあ非常事態といえばそうなんだけど。

ステーキの後は、ストロベリーやナッツをもりもりのバニラアイスを玄が注文した。

「もう一口くれ」を3回くらいもらった。