サンディエゴ58時間
- 2009.12.13
- 日記

土曜日の朝。
激しかった雨は収まったけど、かわりに外の風景も中庭もすっかり白い霧に包まれ、たまに通る車の音くらいしか聞こえてこない。こんな静寂の中にいるのはずいぶん久しぶりな気がする。
昨晩、2泊3日のサンディエゴの出張から帰ってきた。
シャンパンで遅めの食事を済ませ、使い込んでぼろぼろになった1980年発行の楽譜を引っ張りだして、深夜まで息子とふたり演奏会をやった。
ボクはギターで息子はウクレレ。ボクのギターに合わせて息子がドラムを叩くこともある。ここに仲間のTさんがいたらピアノが加わる。
サンディエゴに滞在した58時間の間に、現地責任者の廣田とふたりで55件のクライアントを訪問した。
短い滞在なので、とてもすべてのお客さんに会うことはできないけど、ひとりでも多くの方に会って、目を見て話し、両手で握手をして、今年一年の感謝をお伝えしたかったのだ。
ソニーやパナソニックに代表されるメーカーの多いサンディエゴでは、アメリカ経済の不況に加えて、進出企業の駐在員の減少や経費削減が日系社会の経済にも直撃して、大多数の産業に暗い影を落としている。
業績拡大というよりいかに現状を維持するか、そのためにはこれまで以上の努力と工夫が必要だし、何より経営者自身が顔を上げて会社の誰よりも元気でポジティブでなくてはならない。かといって、希望的観測で備えていては経営が成り立たないから、もう一段の底に備えること、まだ一年は覚悟しておきましょう、いっしょに乗り越えましょう、ボクらは一蓮托生ですとオーナーさんや責任者の方たちと気持ちを重ねて回った。
消費者は値段にこれまで以上に敏感になっている。
秋までそこそこ繁盛していたWさんが経営しているAll you can eatの飲食店は2ドル値上げした途端客足がピタリと止まった。
不況知らずで知られたビーチエリアの繁盛店のオーナーのMさんも首を傾げる。
「込山さん、今は少々のキャンペーンでは客は足を運んでくれないよ。みんな値下げに慣れてしまって“50%オフ”とかでは響かないんだ。それでも限定品を70%オフで出したら、こないだのストーム(嵐)とぶつかったのに100人の行列ができたよ」
それとは別の話で、新規の営業で行った美容整形クリニックでは、オーナー夫妻から高圧的にこんな風に言われた。
「ライトハウスに広告は出したいけど契約書を結ばない。値段もお前の競合誌のA社と同じでなくてはならない。お前の競合誌Aはもちろん、地元の大手情報誌B誌も、お前の雑誌より発行部数が多くて上質な紙を使っている韓国系の情報誌Cも、どこもうちとは契約書を交わさず毎号更新だ。それなら、今すぐ掲載しよう。広告が欲しいだろう」
当たり前だけど、「あなただけ特別なディールをする気は一切ないし、それはすべての広告主を裏切ることになるから、申し訳ないけどあなたと取り引きすることはできない」とキッパリ断った。
本来、ボクらを信じて契約を交わしてくれる広告主にこそ良いディールが提供されるべきだし、同じ日系のA社の営業さんがこの口調で不平等条約を結ばされたのを想像すると、気持ちの底の方からくつくつと怒りが込み上げてきた。おまけに個別のディールの内容を他社に平気でバラす卑しさが許せない。仲間を侮辱されたような気持ちになって、後から引き返してそのオーナーのアメリカ人の広いおでこをガブリと齧りにいこうかと思った。
もちろん明るい話だっていっぱいある。
ペットトレーナーのHさんはいよいよ自分の訓練所を開設した。
ボクら移民が異国でやりたいことを実現するには、ビザや言語、収入、文化の違いなど日本では得られない様々なハードルを乗り越えなくてはならない。日本で何か同じことをしようとするより5年、10年余計に仕込みの時間がかかるし、忍耐が求められる。
まだこれからが本番だけど、オーシャンフロントの好立地に自前の訓練所を構えたHさんの努力とチャレンジに手が腫れるくらい大きな拍手を送りたい。
若手保険ブローカーのDさんは、地道な努力が少しずつ実を結び、週に4回のバーテンのアルバイトが週に2回でもやっていけるようになった。ようやくパートタイムのアシスタントも雇えるようになったそうだ。ライトハウスのおかげですと言ってくれた。ボクもライトハウスの軌道に乗るまでの3年、塾や家庭教師の兼業だったからそのうれしさがよくわかる。
ラウンジを経営するYさんは、
「本当にわからない。すごく繁盛してるんです。いろんな手を打ったけど、何が効いているのか分析できない。ただ9月は過去5年で売上の新記録を更新したし、その後も安定して良いんですよ」
ボクも何だかわからないけど、兎にも角にもうれしいことだからYさんと焼酎のロックで乾杯し合った。
夫婦で不動産のセールスをするLさんはなんと去年より30%も売上を伸ばした。
たしか昨年だってたったふたりで何十件もクロージングしていたはずだ。
聞けば「私たちは経験が浅いから努力で補わなくては」と毎日コールドコールを50本欠かさないし、今でも飛び込み営業をしている。努力家のLさんはいつも明るくて腰が低い。
そういえば、もうひとり知っている不動産のトップセールスウーマンPさんもまだ業界3、4年で経験は浅いのに、指名は彼女に集中するそうだ。ふたりに共通するのは、明るくて謙虚で素直なこと。彼女たちを見ていると、経験不足も若さも不況も言い訳にしかならないことがよくわかる。できない理由を探すのはカンタンだけど、そこからは何も生まれないのだ。
うれしかったことが他にもある。
ほとんどのクライアントのところで、ハワイ版創刊を祝福してもらった。
「頑張れよ!」
「この時期によくやった」
「ハワイにいく口実ができたな!」
「うちも後に続くから先に成功して足場作れよ」
先のことばかりに目がいってしまうボクだけど、こうして新しいチャレンジを応援し、ともに喜んでくれる方たちとのつながりは、ライトハウスの財産でありボクの人生の宝物だ。
イメージと成長とのギャップに、いつももどかしさを感じていたボクだけど、実はものすごく恵まれていることに気づかせてもらった3日間でもあった。
もっとていねいに生きなくては。