Mさん、アムステルダムへ

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昨夜は創刊間もない頃からお世話になっている広告代理店の会長Mさんの送別会が、レドンドビーチの「チーズケーキファクトリ」で開催された。

26年もの長きに渡ってMさんが会長を務めた同社は、日本でも最大手の広告代理店のひとつで世界各地に拠点を有している。

すでに還暦を迎えた歳なのだけど、赤字のアムステルダム支社を立て直すために抜擢されたようだ。きっとゴルフで鍛えた体力と、若い女の子が大好きと公言するエネルギッシュさで選ばれたにちがいない。

パーティにはMさんのつき合いの広さを物語るように各界で活躍する人たちがテーブルを埋めた。

人が集まるところが大の苦手のボクは、出口に近い席を選んで小さくなっていたら、少し後に着いて、ボクを見つけたアサヒビール社長の都筑夫妻がとなりに座ってくれて少し救われた。

都築さんは同世代なのだけどユーモアと見識を持つ尊敬する経営者のひとりだ。話題は、下ネタから哲学、経済からアウトドアと縦横無尽で、そのうえ決して驕ったところがない。いつもLCEの研修やイベントでは、忙しい合間をぬって時間の許す限り学生たちに話を聞かせてくださっている。

おしゃべりで盛り上がっていると、音楽とともに有名ミュージシャンのモノマネをしながらMさんが拍手に迎えられて入場した。

そういえば、いつかMさんはハロウィーンの夜、ショットバーに「スポンジマン」のコスチュームで突然現れたこともある。

目を瞑ってMさんのネクタイ姿を思い浮かべようとしたけど思い出せなかった。いや、きっとなかったんだろう。

浴衣の司会者が最初のスピーチに都築さんを指名した。そつなく笑いを織り交ぜたスマートなスピーチに大きな拍手がなった。

こういうスピーチができる人が羨ましくて仕方ない。

「続いて、ライトハウスの込山社長!」マイクでいきなり指名された。

「ポンッ」カツラだったら5メートルくらい上に吹っ飛んだだろう。アタマ真っ白。

ただでさえ人前でしゃべるのが苦手なのに、まったく意表を突かれて言葉が出てこない。何とか、長年の感謝とヨーロッパに遊びに行きますとシドロモドロで話した。もう、溶けてバターになってパンに塗られてしまいたかった。もう二度とスピーチはしたくない。

それでもまわりがやさしいのか、意に介していないのか、稚拙なスピーチを突っ込まれることなく会は進行して行った。

「コミヤマさん、知っていますか。Mさんはずいぶん昔から『これからの時代はライトハウスだ。あそこは良いよ。必ずライトハウスがひとり勝ちする時代が来る』って応援していたんですよ」

同じテーブルの方から言ってもらって驚いた。つい最近、別の方からもMさんがライトハウスをベタ褒めしてくれているという話を聞いていたのだ。

もちろんMさんは直接会ってもそんなことを言ってくれたことがない。それどころかよく考えたら仕事の話もあまりしたことがない。

ボクは18年前、Mさんより先に奥さんとガーデナ市のカラオケ屋で会っている。その店には遅い時間に広告の打合せに行っていたのだけど、店のママが気を利かせてお客で来ている奥さんを紹介してくれたのだ。一瞬困った顔をしたけど、奥さんはキチンと旦那のMさんに話を通してくれた

「カミサンにはあんなペラペラのタブロイド刷ってるヤツとは会いたくないって言ったんだよ」

向日葵(ひまわり)の入った花束を両手で渡すと、Mさんはあの頃を思い出して照れくさそうに笑った。