マンハッタンの光の海で

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定刻の午後4時45分にアムトラックはニューヨークに着いた。

その足でスーツケースをゴロゴロ引いて、数ブロックのところにあるエンパイアステートビルの75階「ニューヨークKATSU」の克ちゃんの事務所を訪ねた。

克ちゃんは同じ経営塾(*)で学んでいる塾生仲間。
*盛和塾
 http://www.seiwajyukuusa.com/

先週、日本やロサンゼルス、シリコンバレー、NY、ボストン、ブラジルの塾生60名近くが、ロサンゼルスに研修のために集まった。いわゆる経営者のための勉強会や発表会だ。

その打ち上げのBBQパーティは我が家でやらせてもらった。60人近いメンバーが集まる大パーティで、ホスト役のロサンゼルスの塾生が、遠くから集まってくれたメンバーのために精一杯のもてなしをした。

スシボーイの社長の横田さんは豪華な寿司桶を6つ提供してくれただけでなく、BBQを最後まで焼き続けてくれた。天皇陛下の昼食会で腕を振るった経験を持つメゾンアキラの広瀬さんはオードブルを担当。ラーメン工場を持つ山下親子は気を失うくらい美味いラーメンを親子で拵(こしら)えてくれた。また、かね福からいただいた明太子で、社長も弁護士も会計士も一生懸命におにぎりを握った。そんな贅沢で、手づくりの心温まるパーティだった。

そこにはニューヨーク塾の世話人の克ちゃんも来てくれて、今回ニューヨークに出張するボクをお返しに招いてくれた。

ボクが渡米したのとほぼ同じ頃、20年前に28歳で渡米した克ちゃんは、海外から仕入れた繊維をアメリカの大手アパレルメーカーに卸す仕事をしていて、ニューヨーク在住の日本人の間でも、アメリカンドリーマーとしてちょっと知られた存在だ。

今でも思い出すと恥ずかしいのだけど、以前にボクは「バリバリバリュー」という日本のバラエティ番組で紹介していただいたことがある。アホバカ面を公共の電波で全国に晒して今でも反省している。

実は克ちゃんもNYのバリバリさんとして紹介されていて、マンハッタンの75階のオフィスと、郊外にある敷地面積7エーカー(1万坪くらい)という桁違いに広い自宅が紹介された。家の中に池があるというからスケールがちがう。

マンハッタンで一番高い(以前は貿易センタービルだった)エンパイアステートビルの75階の角部屋からは日の出から日没まで眺めることができると言う。

マンハッタンがすっぽり視界に入って、その先には自由の女神が見える。ここから眺めると地球が丸いのがよくわかる。

世界最大の都市ニューヨーク。
ボクはマンハッタンの地べたに立つと、世界中から集まってくる人たちの野望や欲望、失望、絶望、苛立ち、ストレス、そういった「念」が紡ぎ出すナイフのような空気を肌で感じることがある。

それが、ここは天からうんと近いからか、あるいは克ちゃんや会社のムードがそうなのか、雲の上のようなふわふわしてやわらかい空気で溢れている。

克ちゃんによると、オフィスのコンセプトは「みんなが集う場。温かさ、リラックス、癒し」で、木(木目)、竹、藁(わら)、玉砂利、畳がふんだんに使ってあって、75階のビューだけでなく、室内の空間そのものも、心が解放されて、ボジティブで良い発想を引き出してくれそうな空気感がある。

ここに来たら立場も人種も関係なし。ここで夕暮れを眺めながらワインを傾けたら、みんな心の鎧(よろい)を脱いで「素」になるのだそうだ。よくわかる気がする。

間もなく、他の塾生も駆けつけてくれて、夕陽が沈むのを眺めながら、お互いの人生や夢を語って飲んだ。見栄をはったり、自分を大きく見せる必要もない。誰かが抱えている悩みを話したら、みんな自分のことのように受止め、アドバイスをする。経営者同士にしかわからない悩みもある。聞いてもらうだけで癒される痛みもある。

克ちゃんは会話を上手にリードしながら、時々席を立っては自らワインをサーブしてまわる。

そのうちにお寿司の桶が届いた。夜景と仲間とのおしゃべり、ワインと寿司。なんて贅沢なマンハッタンナイトだろう。こんなステキなもてなしはそうそう経験できるものではない。お客さんの多いボクは良いヒントをいただいた。

とっぷりと日が暮れて、室内の照明を落とすと、零(こぼ)れんばかりのマンハッタンの光の海にプカプカ浮かんでいた。