スーパー中矢

スーパー中矢

月曜日は陽が高いうちから日本郵船のキャプテン(船長)伊藤さんと酒を飲んだ。

伊藤さんは僕の母校の先輩中矢さんの同僚(後輩)で、かつて二人はある壮大なプロジェクトに取り組んだ。

それはフィリピンに商船大学を創ること。

当時、日本郵船グループの外国人船員は13,000人、うち70%はフィリピン人船員だった。世界的に船の需要が高まる中、幹部船員の確保と質の向上が急務で、「船員を対象にした訓練」から、「学生を対象にした船員養成」まで踏み込まねばならないという同社の危機感から、民間企業が海外に大学を創るという前例のないプロジェクトに踏み切った。

中矢さんはプロジェクトの中心人物。中矢さんが世界中から、伊藤さんはフィリピン国内から、手分けをして無数の高校を訪ね、夢とビジョンで先生や生徒たちの心を動かした。来る日も来る日も。

そして2007年、マニラ近郊のカンルーバン市に航海科(船長養成コース)60名、機関科(機関長養成コース)60名、講師30名でその大学は産声をあげた。

大学の名は、NYK-TDG MARITIME ACADEMY(NTMA)。

今ではフィリピンのトップ大学としてアジアの優秀な若者を集める。

酒が進み、中矢さんの話になった。

「僕たち後輩は、中矢さんのことをみんな『スーパー中矢」って呼んでました。スーパーマーケットのスーパーじゃないですよ。リーダーシップは取れる、難しい国家試験にサクサク合格する、バスケはうまい、オマケに留学先でできたアメリカ人のガールフレンドの写真を部屋に飾っていたんです(笑)」

「それは面白い。確かに今もスーパーマンです。本人は出世とか興味がないけどまわりが放っておかない。仕事と責任が集まるんです。『スーパー中矢』いいですねえ。これはさっそく本社で流行らせましょう(笑)!」