海中ホテル

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経営会議の間に、Tくんからメッセージが残っていた。

Tくんは娘の高校時代のクラスメイトで、2年か3年前のある週末、友だち3人と「将来の相談」で僕を訪ねてくれた少年のひとりだ。

彼らに何を伝えたかよく覚えていないけど、彼らがとても熱心で、納得するまで何度でも質問をしたこと、それと、Tくんの夢が「海中ホテルを作ること」だったことは印象に残っている。

幼い夢のように見えるけど、僕はそうは思わなかった。むしろワクワクした。

たくさんの人を乗せて空を移動する、

宇宙に行く、

治らない病を治す、

地球の裏側の人と顔を見ながら話す、

まだ、それが実現していなかった時代に、多くの人は笑ったのかもしれないけど、夢を信じ続けられる人たちによって、夢の世界は僕たちの日常になった。

だから僕は、人の夢を感心することはあっても、バカにすることは決してしない。それは人として恥ずかしい行為だから。

受話器の向こうのTくんは、謝らなくてはならないことがあるから会ってほしいと言う。

「会うのはかまわないけど、何を謝ろうとしているのかオジさんに話してごらん」

よくよく事情を聴くと、海中ホテルを作ると宣言したけど、どうもそれが現実的なことではなくて、追いかけるべき目標と思えなくなった、そのことが僕に対して嘘をつくような、裏切るような感覚で、どうしても直接謝らないと気がすまない、そういう話だった。

大学3年生になって、さらに歯応えのある夢が見つかったのならよいけど、収益性とか資金力とか建築技術とか、(大事だけど)枝葉の話で、わかったようなつもりで諦めようとしているなら見過ごせない。

若者の夢は、ガラス細工のようなところがある。大切に扱わないとすぐに壊れてしまう。

できない理由や、構想の盲点、死角を見つけるのは簡単だし、誰にでもできる。

そんなことより、どうやったら実現できるか、いっしょに知恵を働かせるのが大人の役目だ。

それに、僕の楽しみを簡単に諦めるわけにはいかない。

早速明日会社に来るように伝えた。