続・まちぶせ

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昨晩は先週金曜日に続いて、同じモールで雑誌泥棒の張り込み。
もちろん相棒は青木くん。

街頭以外の照明がすべて消えた午前2時半に現地で待ち合わせる。

場所を少し変えて、情報誌各社のラックがずらりと並んだポイントから、50メートルくらい離れたところに駐車して、二人で後部座席に身を潜めた。まだカラダの芯にキックオフの余韻が残っている。

何台かトラックや乗用車がラックの前に停まっては情報誌をピックアップしていくが、それらしき車は4時を過ぎても現れなかった。

もう今日はダメかなと腕時計を眺めた時、突然ヘッドライトが視界に入り、顔を上げると、ピックアップトラックがラックの前に勢いよく停まるところだった。

目を凝らすと、運転席から男が車を降りて、小走りにラックに向かうではないか。

来たっ!!

ある程度積み込んで証拠を押えたところで捕まえようと、ボクは大きく息を吸って待った。高鳴る鼓動の中でハイキックから入るか、低いタックルで攻めるか、はたまた体当たりで突き飛ばすか思案する。警察が来るまで取り押さえるのはボクの役目だ。

すかさず青木くんは、カメラのスイッチを入れながら911(警察)に電話して、

(ちょっと裏返った声で)
「雑誌が盗まれている。ここはA通り沿いのBモールの中のC店なんだけどすぐに来てほしい。

そう、だからすぐに来て。盗まれているから」

と訴えたところで・・・。

あれま。

トラックが走り去るではないか。

ちがう意味で焦った青木くんが、その事態の変化を一生懸命警察に伝えている。

「盗んでたはずだけど今去った。

いや、だから盗んでたはずけど盗んでないかもしれない。

だからこなくていい。

うん、だから盗もうとしたようだけどもう去った」

なんだか聞いてる方も言ってる方もよくわからない。

トラックが去った後、ラックに走ったけど盗まれた形跡はなかった。思わず寿司特集の表紙をなでなでして歩いた。さっきの輩が何をしようとしたのかわからず、青木くんと顔を見合わせた。

その夜はそれきりだった。

ひょっとしたら帰ってくるかもしれないと、5時過ぎまで朦朧(もうろう)とした頭で、青木くんのボクシングや相撲談義を聞いて待ったけど誰も現れなかった。それにしても往年の名選手や名勝負に詳しいのに舌を巻く。青木くんが寡黙であったらボクは爆睡していただろう。

別れ際、伸びをしながら「それはそれで楽しかったな。またやろう」と言ったら青木くんの表情が一瞬だけ消えた。

(つづく)*見張りのこと