立って寝るか、逆立ちするか

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独り暮しのボクを心配して、台湾にいる娘は毎日のようにメールや電話で元気づけてくれる。どっちがしっかりしているのやら。

木曜日から金曜日にかけてはサンディエゴに泊まりの出張に行っていた。

今回はLCEからライトハウスに移動になった滝井くんの同行研修と、同じくLCEからライトハウスのサンディエゴ支社の責任者に復帰した大野くんと作戦会議や営業同行のため。

サンディエゴでは後発のライトハウスだけど、メンバー全員の頑張りで春先からガンガン調子を上げている。

まだ8月真ん中にして、年内に契約している売上合計が昨年の売上を突破した。

ここからは伸びる一方だ。

サンディエゴ版はまだ全体の売上が小さいこともあるけど、今期の2桁成長はもちろん、来年は50%くらい売上を伸ばせるだろう。それは広告主や読者モニターの声から手応えを感じている。

決して突然良くなったのではなく、創刊からコツコツやってきたことがちょっとずつ実り、ようやくサンディエゴ在住の方たちに支持をしていただけるようになってきたのだ。

読者の支持を得られれば、多くの広告主は読者の中にいるから数字は後から追いかけてくる。これからも価格破壊に翻弄されることなく、誠実に「コツコツ(大)作戦」の継続だ。

営業同行の現場では、「某社は半額にしてくれた(倍のサイズにしてくれた)」「半値にしてくれたら出す」「誰にも言わないから負けて」と言った根拠のない不毛な投げかけに気絶しそうになりながらも、迎合せず、気持ちを切らさず、次につながる空気を残して席を立つようにしている。

その扱いが今のわれわれの実力なのだからこればっかりは仕方がない。

一方で、真剣に商売の相談をしてくれるテーブルは気持ちが良い。今すぐに広告が出るとか出ないとかは後の話なのだ。

今回もあるホテルオーナーから相談を受けて、温めておいた、稼働率と利益をしっかり伸ばせるビジネスモデルを提案したら「こんなに具体的に、プロフェッシュナルな提案をしてくれる会社は初めて」と大いに喜んでくれた。

早ければ数ヶ月内に世に出るだろう。このプロジェクトが成功したら、日本からの進出企業や、これから商売を始める人たちに大きな助けになる。

目算通りに成功したらロサンゼルスや全米の主要都市への展開を後押ししたい。そうすれば、放っておいてもボクらの商売である広告出稿は大きくなるし、HR(人材業)もついてくる。みんながウィンウィン。

これも、営業、企画、制作の連携で実現したライトハウスの「勝利の方程式」(ちょっと古い?)だ。

それとは別に、サンディエゴに暮らす永住者、駐在員、主婦、学生・・・。異国であるが故に生じるさまざまな悩みやストレスを、誌面を通して少しでも解決できないか、評判の精神科の先生に相談したら、来月から新コラムを書いてくれることになった。

難しい心のメカニズムを、子どもが読んでもわかるようにやさしく、人間味たっぷりに書いていただくよう依頼した(オマケに広告もついてきた)。

金曜日の最後のアポイント。筑波で按摩(あんま)師を目指す人に按摩技術を教えていた岩本先生は、一念発起してサンディエゴに家族で移住してきた。40歳からのチャレンジだ。

全盲の岩本さんは、盲導犬のメドが立ったら、こちらで按摩師として開業したいとライトハウスに相談をしてくれたのだ。

待ち合わせのスターバックスに岩本さんはひとりでバスでやって来た。どこにだって杖一本で行ってしまう岩本さんにボクはいきなり勇気をもらった。

いろんな会話の中で、「ボクが障害を持つのは意味があり、運命だと思っています。障害があっても、外国に渡ってやっていけることを証明して、障害者だけでなく多くの人を勇気づけたい」そんな話を、イチローのような語り口で聞かせてくれた。

岩本さんは、スキャナーで読み込んだボクのブログを点字にして愛読してくれていると言う。もうひとつの会社「LCE(ライトハウスキャリアエンカレッジ)」のビジョンにも強く共感してくれた。ありがたい。

大野とボクで、思いつく限り開業がスムーズに行くためのアイデアを出した。できるだけ移動のロスをなくして稼働率も上げたい。ブランドも守りたい、育みたい。大野がさっそく週明けから日系のクリニックやホテルでタッグを組めそうなところを打診することになった。この男のネットワークは熱くてネバいから侮(あなど)れない。

「まだ何にもないうえ、広告も出せるかわからないのにありがとうございます」

「ぜんぜんオッケーです!」

ボクらはチカラいっぱい応えて、両手の握手を交わして店を後にした。

そうなのだ。そんなことはぜんぜんオッケーなのだ。

自分たちを頼りにしてくれる人がいるシアワセ。期待に応えて喜んでもらえるシアワセ。仕事の醍醐味ではないか。

最近ボクはメンバーに数字の話ばっかりしているけど、会社で一番大切なのは事業を通して、人様のシアワセとかヨロコビを追っかけることだと思う。

「絶対、成功してもらいましょう!」

突然となりで人相の悪い大野がコブシにチカラを込める。そして続けた。

「社長、ブログみんな見てくれてますよ。サンディエゴにも足向けて寝れませんね」

「ホンマやのう。あっちにもこっちにも向けられん。立って寝るか、逆立ちするしかないのう」

大笑いしながら、温かい気持ちでサンディエゴを後にした。