伴走

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週末の剣道大会で、息子の玄(はるか)が準決勝で敗れてから、親子で朝晩300本ずつ素振りを始めた。

いや、100本のつもりが熱が入って回数が自然に300本になったのだ。どうしよう。

2本いっしょに握って、力一杯振っていると、すぐに両腕が鉛のように重くなる。手のひらにはマメが浮き、握力が失われていく。

それでも、1本たりとも手を抜かず、真剣勝負で黙々と振る。

100本振るたびに「うぉー!!!」とクマのように叫び、叫んではまた100本振る。

はるかも最初は呆れていたけど、ボクの気合いに圧されて、いっしょになって2本の竹刀で振っている。

いよいよ来週に迫ったラスベガスで開催される全米大会。
将来の世界大会への登竜門だ。

昨年、息子は20件以上の道場が加盟する南カリフォルニアの剣道協会の代表選手のひとりに選んでいただき、この一年間強化選手として厳しい稽古に耐えてきた。

その練習を、週日に、週末の早朝に、続けることができたのも、剣道の先生や先輩たち、ボランティアのお母さんたちのおかげだ。

スポーツや演劇は、コート(グランド)や舞台に立った者が主役ですべてのように見えるけど、決してそんなことはない。それを支える何倍もの人たちのおかげで成り立っているのだ。

その存在を知り、出たくても出られなかった仲間を思えば、いい加減な練習ができるはずがない。

ボクには朝晩いっしょに素振りをしてやることしかできないけど、せめて息子が、やれることをやり尽くすための伴走をしたい。

ボクが伴走をしてやれる時間も人生の中ではそう長くはない。

「自分ひとりのために戦うんとちがう。お前を支え、応援してくれているみんなのためにも頑張るんや。それに人間はな、自分ひとりのためより、誰かのために頑張った方がすごいチカラがでるんや」

と、目に力を入れて息子を見ると、息子はボクの手元を凝視している。

げろ。

自分の手元を見ると、茶色の革靴の磨いたところが真っ黒けになっている。

艶出しと思って磨いた液体は黒い靴墨だった。

覆水盆に返らず。そのまままんべんなく塗って黒い靴を一足増やした。