友に感謝

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金曜日の夕方から二泊、ニューヨーク帰りの中川さんが遊びにきた。

日本で運送会社を経営する中川さんは、ここ5年、年末年始は家族を大阪の実家に帰し、ニューヨークで自分を見つめ直すという口実のもと一人旅を楽しむ。

ミュージカルを見物したり、コンサートを鑑賞したり、あるいは五番街で買い物をしては、キビシク自分を見つめ直している。ボクも自分を見つめ直したくなってくる。

中川さんはボクより4つ先輩。数年前、彼の会社が毎年開催している「世界フリーペーパー祭」に、ライトハウスを出展させてもらったのをきっかけに、個人的にも親しくなった。

これまでも、海外のメディア経営者や提携先の候補を紹介してくれたり、逆にこっちが紹介したり。また温泉やゴルフに行っては、お互いに経営者の視点でビジネスの相談やアドバイスができる、そんな貴重な仲間だ。

業界や、歩んできた道がちがう分、斬新なアイデア、知り得ない情報や知恵が交換できるのもありがたい。

今回も雑談の中から、新会社のマーケティングが必要なボストンで、何人か現地の顔役を紹介してもらえることになった。顔も広いのだ。

冒頭であんなことを書いたけど、家庭人の中川さんは、週末は家族に三度のご飯を作ったり、娘に見せられない行動はしないと、一切の遊びごとをしない実直な「お父さん」でもある。

ボクのまわりは、(視認できる範囲では)家族を大切にする連中ばかりだけど、その中でもとりわけ家庭を大切にする人物だ。
また、それを支える奥さんや娘のエミコちゃんも良く大黒柱を尊敬し、慕っている。

晴天の土曜日。マリブまで足を延ばして二人でゴルフを楽しんだ。

起伏に富んだ山岳コースで、ボールを打ち損じたり、パットを外しては一日笑い合った。お互いにアドレス(スィングの構え)に入ると、話しかけたり、視界の中で踊ったりするから行儀が悪い。

幸い、前の晩に中川さんに貸すゴルフクラブに呪文をかけておいたのが効いたようで、ラウンド後はうどん2杯食べられるくらいの小遣い銭がもらえた。

マリブからサンタモニカヘ続く海岸線の帰り道、中川さんは創業期の話をしてくれた。

前職の一部上場企業のサラリーマン時代は、月に30億円に余る予算を任されていたけど、独立して最初にもらえた仕事は、ダイレクトメールに切手を一枚2円の手数料で、700枚貼付けるという地味な仕事だった。

その晩、それを家に持って帰って、テレビもつけず、奥さんとふたり黙々と貼付けていた。時計の針の音だけが響く夜半過ぎに奥さんが尋ねた。

「この仕事っていくら貰えるの」

一枚2円というのが恥ずかしくて、一瞬、全部で2万円とか大きく言おうかと思った。だけど、嘘は言うまいと意を決し、ありのまま正直に応えた。

奥さんは「けっこう貰えるんだね」とニッコリ喜んでくれた。

「退職してから、もう一度(前の)会社に戻してほしいと、上司に土下座をする夢ばかり見ていた自分だった。だけど、この瞬間に腹が決まった。

もう後戻りしない。やっていくぞと。

もしあの時に家内が、ガッカリしたり、僕のことを非難をしていたら、気持ちが折れていたと思う。少なくとも、今の会社や自分はなかった。家内の思いやりに救われた」

それから10年弱。

夫婦で切手を貼っていた会社は、池袋サンシャインの40階に、東京を見渡せる広いオフィスを構え、主要都市には拠点を置き、年商は10億をゆうに超える。社員は社長に似て、礼儀正しく熱い。

もうひとつエピソードを紹介しよう。

2円のダイレクトメールの仕事をくれた担当者は、その後他の会社へ転職してからも、中川さんの会社を指名した。

これまでの受注金額の合計はとうとう20億円を超えた。

「ラッキー」

という話ではない。

「その人に会っていたら、ワシも成功した」

という話でもない。

2円の仕事を毎回誠実にやったからこそ、今日の20億円につながったんだと思う。言い換えたら、一見小さな仕事に全力を尽くさずして、大きな仕事は任されない。

今、目の前のお客さん、目の前の仕事に、丁寧に、全力で向き合いたい。

今日もまた友に感謝したい。