5000円の親孝行

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週に一回くらい親父に電話をしている。
親父の耳が多少遠いのもあるけど、男の親子というのは何とも会話が弾まない。
サービスエースでほとんど試合が決まるテニスみたいだ。

「最近、どうなん?」
「うん、やっとるで(なにを?)」
(以上)

「メシ、残さんと食うとんな?」
「やっとるで」
(以上)

それでも新しい環境に馴染んできた親父の声は日を追って明るくて、ぽつりぽつりと日常の出来事を話してくれたりもする。ここ2日は、アメリカに暮らした最後の方は諦めてしまった散歩を一時間半もしたそうで、ちょっと得意げな感じだった。
ボクはそんな小さなビッグニュースに心で手を合わせる。

11月の日本出張の合間に2泊だけ親父を訪ねて、親父が行ってみたいという温泉にレンタカーで足をのばそうと思う。親父がアメリカに暮らしている時は、同じ話を楽しげに何度もするのに閉口したけど、もうちょっとやさしくすれば良かったと悔やんでいる。これからはもっと根気よく、同じ話5回まではオッケイとして、6回目から毎回500円程度課金しようと思う。それが5000円にもなったらしめたものだし、その方が親父も緊張感が出るだろう。

受話器を置く時、親父がからっと言った。

「11月待っとるで!」