2円の切手貼り
- 2008.02.19
- 日記
一昨日の土曜日に日本から遊びに来てくれたNさんが、我が家に二泊して今朝(月曜日)ロサンゼルスを発った。
昨日はパロスバーデスカントリークラブで午後からゆっくりラウンドして、夜はジャグジに浸かって、仕事や人生の話を遅くまで語り合った。
久しぶりに良く笑ったし、多少のグチもこぼし合ってスッキリした。
Nさんはボクより4つ年上。40近くまで大きな会社で働いてから、8年前にロジスティックの会社をつくって独立した。
今では年商10数億円、従業員数を25名抱える会社の親分だ。
業種はちがうけど、会社の規模も、経営哲学や人生観も似ていて、経営の課題や悩みをたがいに話せる希少な仲間だ。
Nさんの創業当時の話がおもしろい。
大手企業での退職前、年間20億円の商いをあずかる部署の責任者だった。
900万円の貯金と300万円の退職金をあわせた全財産を資本金に会社を設立。銀座に家賃13万円の事務所を借りた。自分の給料を15万円と設定したものの、赤字ではもらえるはずもない。最初の2ヶ月は入金ゼロ。資本金は目減りする一方。
そんな船出の中、最初に受注した仕事は、ダイレクトメールの切手を一枚2円の手間賃で600枚貼付ける仕事だった。
複雑な気持ちで家に持ち帰り、時計の音だけが聞こえる自宅マンションで奥さんとふたり黙々と切手を貼り続けた。
時計が深夜を過ぎた頃、奥さんがぽつり。
「ねえ、この仕事っていくら貰えるの?」
Nさんはあまりにも安すぎる受注に、一瞬恥ずかしくて3万円とか答えようかと思ったそうだ。
だけど、ウソをついても仕方がないので、意を決して、一枚貼って2円しかもらえないことを正直に話した。
「へえ、けっこう貰えるんだね」
無邪気に、出産間もない奥さんが手を動かしながらそう返した。
Nさんは奥歯を噛んで必死で涙が溢れるのを堪(こら)えた。
「もしその時に、なんでそんなに安いのか、どうしてそんな仕事を請けたのとカミサンから言われていたら、きっとあの時オレは折れていたと思う。カミさんの言葉に救われた」とNさんは訥々と語った。
そしてその時、やっと経営者として頑張り抜こうと腹が決まったそうだ。
ボクも、家内の明るさや、「なにかあったら、アパートの一室(創業時のオフィス)からやり直したら良いじゃない」という言葉に、何度も励まされたし救われた。
実はこの話にはオチがある。
それからも、日中の業務が終わると家に持ち帰って、来る日も来る日も夫婦で切手を貼り続けたそうだ。
3ヶ月経った頃、あまりにも安いのでもう一度担当者に掛け合った。
「これじゃあんまりにも(採算が)合いません。料金を上げさせてもらえませんか」
「うん、そりゃそうだ。その値段じゃムリだよね。確かに安いわ。ありえない」
値切り倒した同じ担当者の口から出た言葉にNさんは思わず力が抜けた。
それからほどなく、その担当者から電話があった。
「Nさんには良くしてもらいました。今度、H社の移ることになりました。またそっちでもお世話になることがあるかもしれません。その時はよろしく」
Nさんは気にもとめずにいたが、半年経った頃、その担当者が転職先から電話をくれた。
「またお願いしたいんだけどチカラになってもらえますか」
それから7年以上、同社との取引は安定して続いている。
取引額を聞いて唸った。
年間4億円。
Nさんの会社の売上の3割を超える。
ヒトの縁はおもしろい。
多くの成功者を見ていて共通するのが、「(儲けが)合う、合わない」「つき合って損か得か」目先で判断しない。
近頃はソロバンでばかり物事を考えて、テイクアンドギブ(もしくはテイクアンドテイク)のヒトが多いけど、まず四の五の言わずにやってみることって大切だと思う。
チャンスをくれた相手に誠実に尽くす。
やってみて、意味のないことやムダなことなんて何一つない。
まずアクション。一歩踏み出したら、視界は変わるし広がる。
一生懸命に頑張っている人間、誠実な人間をまわりは放っておかない。
と、ボクは思う。
これは経営とか、創業時に限った話ではなく、すべてのことに当てはまるような気がする。
Nさんの創業時のエピソードを聞きながら、近頃自分自身がソロバンやアタマ(理屈)で物事を考えてはいないか我が身を省(かえり)みた。