風化させてはならないこと

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8月2日付の羅府新報に、元南カリフォルニア日商の会頭の半田俊夫さんが寄稿された「戦時日本政府の広島原爆抗議電文」です。

もっと学ばねば、もっと伝えねば、そんな思いを強くしました。ぜひ、ご一読ください。

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<投稿>
「 戦時日本政府の広島原爆抗議電文 」
     加州パサデナ市 半田俊夫

 あの広島、長崎への原爆投下から15日の敗戦へとなだれを打った暑く熱い8月が又やって来た。

 1945年8月6日の広島への原爆投下(9日に長崎)を受けた戦時日本政府がわずか4日後の10日付けでアメリカ政府に対しスイス政府経由で至急電による抗議文を発信している。

 この段階では日本は(原爆の惨禍とソ連の突如の対日参戦を受けて天皇の決心に基づき)同じ10日付けで大筋でポツダム宣言の受諾の表明を発信済みで、米英中ソからの回答を「ひたすら」待つ段階であった。

 ポ宣言受諾の書き方も自側については明確に「帝国政府は右宣言を受諾す」、相手側に対しては(日本の受諾に対する)「明確なる意思を速やかに表明せられんことを”切望”す」と一刻も早い終戦を欲する辛さの滲む書き方で、謂わば瀕死の状態だったと言える。その状態でも発信した原爆抗議文であった。

 当時は鈴木貫太郎政権、外相は東郷茂徳。だが時の誰がこれを発想し執筆したかは不明だ。しかし人道的見地に立って真っ向から決然と米国に発信された当時の日本政府のこの電文は歴史文章としてもっと日本と世界に知られて良い。

 秒読みで敗戦に向かう悲惨、混乱と大惨禍の断末魔といえる中で、強大な戦勝国となる事が決定的な勝ち誇る米国に対して日本国として堂々と突きつけた抗議文章であった。

広島原爆投下が6日、長崎原爆が9日。当時物理学界第一人者の仁科博士が飛行機で8日夕刻広島に着き上空から被災状況をみて「原子爆弾である」と断定した。抗議文発信は10日午前1時。原爆公式判定が10日午後1時になったため抗議文に原爆の言葉は使用されなかった。前日の長崎被曝は触れられていない。

 一方米国は11日スイス公使館経由で国務省が受領したが日本に対しては黙殺した。そのまま4日後の日本の敗戦に至っている。米国は後日戦勝後に「日本の抗議に回答しない。抗議の受理について何の表明もしない」ことを採択している。なお、戦後の日本政府は原爆投下について米国に対して一度も抗議の表明をしていない。

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 1945年8月10日付け(原文)「大至急・米機の新型爆弾ニヨル攻撃二対スル抗議文」

 「本月6日 米航空機ハ廣島市ノ市外地区ニ対シ新型爆弾ヲ投下シ同時ニシテ多数ノ市民ヲ殺傷シ同市ノ大半ヲ壊滅セシメタリ」と書き出されるこの電文は句読点なしのカタカナ表記でありそのままでは読みにくいので以下全文を口語体にする。

 「広島市は何ら特殊の軍事的防備ないし施設を施していない普通の一地方都市であって、同市全体として一の軍事目標たる性質を有するものではない。

 本件爆撃に関する声明に於て、米国大統領トルーマンは、我等は船渠(ドック)、工場および交通施設を破壊すべしと言っているが、本件爆弾は落下傘を付して投下せられ、空中に於て炸裂し、極めて広い範囲に破壊的効力を及ぼすものであるから、これに依る攻撃の効果を右のような特定目標に限定することは技術的に全然不可能であることは明瞭であり、右の本件爆撃の性能については、米国側に於ても既に承知している所だ。 

 また実際の被害状況をみても、被害地域は広範囲にわたり、右地域内に在るものは交戦者、非交戦者の別なく、また男女老若を問わず、総て爆風および輻射熱に依って無差別に殺傷され、その被害範囲の一般的にしてかつ甚大なるのみならず、個々の被害状況よりみても未だ見ざる残虐なるものと言うべきである。

 そもそも交戦者は害敵手段の選択に無制限の権利を有するものではないこと、および不必要な苦痛を与えるような兵器、投射物その他の物質を使用すべかざることは、戦時国際法の根本原理であって、それぞれ陸戦の法規慣例に関する条約付属書、陸戦の法規慣例に関する規則第22条および第23条(ホ)号に明定されている所である。
 
 米国政府は今次世界の戦乱勃発以来、再三にわたり毒ガスないしその他の非人道的戦争方法の使用は文明社会の興論によって不法とされているとして、相手国側がまずこれを使用せざる限り使用することなかるべき旨声明しているが、米国が今回使用した本件爆弾は、その性能の無差別かつ残虐性に於て、従来かかる性能を有するが故に使用を禁止されている毒ガスその他の兵器を遥かに凌駕している。

 米国は国際法および人道の根本原則を無視して、既に広範囲にわたり、帝国の諸都市に対して無差別爆撃を実施し来たり。 多数の老幼婦女子を殺傷し、神社、仏閣、学校、病院、一般民家等を倒壊、または焼失せしめた。

 而して今や新規(新奇とも)にして、かつ従来の如何なる兵器、投射物にも比し得ない無差別性、残酷性を有する本件爆弾を使用せるは、人類文化に対する新たな罪悪である。」

 そして「帝国政府ハ茲ニ自ラノ名ニ於テ且ツ又全人類及ビ文明ノ名ニ於テ、米国政府ヲ糾弾スルト共ニ即時斯ル非人道的兵器ノ使用ヲ放棄スヘキコトヲ厳重ニ要求ス。」 と結ばれている。

 (出典:文芸春秋社「幻の終戦工作」竹内修司著)
なお電文の原文は日本語、英語共に外交資料館に残っているといわれる。 
   
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