スモークパーソン

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「スイマセン。あなた、、、さっきから彼が言っているのが聴こえないのですか。

どうしてやらないの?

どうして動いてあげないのか私に聞かせてくれませんか?」

楽しい名古屋での会食の後。

先に勘定を済ませるためにレジで待っていたら、小意地の悪そうなバーテンダーが、若いウェイターのオーダーをわざと無視するのに遭遇した。

何度頼んでも動かないバーテンに、おろおろするウェイターの青年。

「(・・・むむむむむっ)」

大きなお世話だし、何様でもないし、おまけにアウェイだけど、割って入った。

顔を歪めてバーテンは意味不明の言い訳をしたけど、「ずっと見とったぞ」と睨んだら、しぶしぶ動いた。

絶対反省していない顔なので、さらにイジワルが繰り返されぬよう、店長にも丁寧に状況を伝えてカイゼンをお願いした。かなり余計なお世話なんだけど。。

実は一昨日の夜も、些細なことで余計なことをしてしまった。

大阪。遅い会食のテーブル。隣のテーブルには後から入ってきた中年カップル。

僕ら以外に客はいない。

男はすぐに煙草に火を点した。

それから小一時間。。

こいつ、、、聖火ランナーか?イスに座ってから途切れることなくずっと吸い続けてる。

場所を選べば、煙草を吸うのは自由だし、喫煙者の権利だ。人が気持ちよく吸っている時間を損ないたくない。

それにしても、、同席の女性に煙が行かないための配慮か、宙にあげた煙草の煙は、僕のゲストの頭まで30センチの位置から、そっくり僕らのテーブルに運ばれてくる。

煙に包まれるマイゲスト。スモークサーモンならぬ、スモークパーソン。

繊細の料理の味も、日本酒の香りも、楽しいはずの会話も、すべて煙草の煙が邪魔をする。

「ガラガラガラーッ」

玄関脇に座っていた僕はゆっくりと立ち上がってドアを全開にした。

のれんが風に揺れ、大量に晩秋の夜風が店内に吹き込んだ。

口から深く吸い込むと清々しい空気が肺の中を満たしていく。

「寒いんやけど」

とっさに振り返って凄んでみせる男。

「すいません、煙草がすごく煙くって。僕、ゼンソク(気分)なもんで」

Tシャツ姿の僕は、肩をすぼめて明るい笑顔で返した。奥から店長が走ってきた。

そんな出来事を思い出しながら、新神戸から東京に向かう新幹線のトイレで着替えていたら、水道に置いた僕のズボンにセンサーが反応して、ズボンが水浸しになっているのに気づいた。

ここでバチが当たった。