親父の人生第3コーナー(1)

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今年食べた朝ゴハン部門で1番おいしかったかも知れない。

9月5日の日曜日。
ボクは今萩の伯母の家に来ている。

伯母が漬けた萩の魚のみりん干し。
庭の畑で今朝摘んだばかりのオクラの和え物。
地元名産のかまぼこと竹輪。
ちらし寿司と温かい味噌汁。

伯母、退院したばかりの親父、弟と囲む食卓がこんなにおいしく感じられるのは、新鮮な地の素材と伯母の腕もあるけど、親父の生活環境が整いつつあることが大きいようだ。

今年の7月にいっしょに九州旅行をした親父が、自転車で転倒して入院したのはボクが日本を後にしてアメリカに帰ってきたタイミングだった。

近所の方が救急車を呼んでくれてすぐに病院に運ばれたが、親父は何を思ったか勝手に帰ってしまいたいへんなことになっていると受話器の向こうの伯母。

酒が過ぎる、言うことを聞かない、補聴器をつけてくれない、そんな小言が出ることもあったけど、いつも遠くに暮らすボクらが心配せぬよう努めて明るく話してくれた。いつも快活で笑った表情しか思い浮かばない伯母。

その叔母の声が悲しく響く。

翌日、親父と歳の近い従兄弟夫婦が病院に付き添い、診断をしてもらった結果、肘を複雑骨折しているのですぐに手術をする必要があるとのことだった。
術後もリハビリと一ヶ月の入院が必要だけど、「洋ちゃんは心配せんでええから。オジさんのことはこっちに任せんさい」と従兄弟のアキラさんが逆に元気づけてくれた。

状況がわかっただけ少し安心したその翌日、肘を固定して、点滴の管を通し、絶対安静状態の親父が(またまた医者の言いつけを無視して)黙って便所に行こうとしたところ、転倒して頭を打ったと言う。尿瓶(しびん)で用を足したくなかったのだろう。それにしても。

精密検査をするために別の大きな病院に行かねばならないと言う。

いよいよ伯母の声に怒気が混じる。

(つづく)