ガーデナの夜景

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 12月27日の日曜日。

冬休みに入ってからは、ゴルフに行ったり本を読んだりオフを満喫しつつ、子どもたちと過ごす時間を優先している。

とくに運転免許の実地試験を控えた娘の運転の練習に、昨日今日と助手席で身体を張ってつき合っている。何でも筆記試験に合格してから実地試験を受験するまでに50時間の実地トレーニングが求められている。

それこそ昨日の朝練は、ガレージから曲がりくねったドライブウェイをバックで公道まで出るのに前後進を繰り返し、急発進と急ブレーキですでにもどしそうになるくらい車酔い(30年ぶりくらい)したけど、夕方にはパロスバーデス市からなるべく交通量の多い大通りを選んでトーランスを経てガーデナ市まで遠征することができた。さぞ自信をつけたであろう。

ボクは横ですごくキビシイ。

「よその車の死角(斜め後ろ)に絶対に入るな。ほら、そこじゃあの車のミラーに入んないだろ。いつも、まわりの車の見えるところに身を置かんとダメだ!ウィンカーなしでこっちに車線変更して来たらどうすんだ!」

「コクリ(うなずく)」

「人を信じても、まわりの車はすべて疑え!何回でも言うけどこっちが見えてないし、突然割り込んでくると思え」

「コクリ(うなずく)」

「差別はダメだけど、汚い車、ボロボロの車の側を絶対に走るな。ぶつけられたり、事故に巻き込まれても保険に入ってないと思え。パパもアメリカ来た頃、500ドルの車に乗ってた時、保険なんか入る金なかったから」

「ふ〜っ(ため息)」

北上しているうちに、せっかくだからライトハウスが21年前に創業したガーデナのアパートに足を延ばした。

家賃600ドルくらいの2ベッド2バスで真ん中のリビングが仕事場。彼女の両親、すなわちボクたち夫婦の住居が片方のベッドルーム、もうひとつのベッドルームにルームメイトがいた。家賃が安いうえに通勤時間はゼロ。このアパートには本当に世話になった。

そんな思い出が詰まった空間を、車を停めて娘と見上げる。

「ここがライトハウスの出発点。お昼に広告の営業と記事の取材をして、夕方から塾と家庭教師をして、一晩中記事を書いたり次の日の予習をして、若い頃のパパが右も左もわからないけど一生懸命走った時代のアパートなんだ。」

娘は目をキラキラ輝かせた。

それから今度はウエスタン通りにもどって、右にマルカイを見ながら北に上がると、左側に出てくるレンガ色の2階建てのビルの横を通過する。

「ここはパパが初めてオフィスを借りた最初のビル。お金がないラジオ局と、もっとお金がなかったパパの会社に、相部屋だけど格安の家賃で大家さんが貸してくれたんだ。ラジオ局の家賃がたしか550ドル、パパの会社は350ドル。今はどうにか自分たちのビルを持てるようになったけど、その時は毎月の350ドルが払っていけるかパパ自信がなくてね。すごく怖かった。でも思い切って借りたんだ。あぁ思い出しても怖かったよ〜(笑)」

つられて目を細めて笑う娘。

ボクといっしょで独立心がすこぶる強い娘はもうすぐ17歳。再来年の夏には大学の寮に入ってしまう。

密かに子離れ準備中のボクは、朝に晩に娘を見つけたら両手をクマのように広げてハグしている。自分がこういう父親になるとは想像もつかなかった。

冬休みの間に、F1に復帰したシューマッハとはいかないけど、頭文字の「シュ」くらいまで腕をあげてやるのだ。

車窓を流れるガーデナの街にいつの間にか夕闇に染まっていた。