SF−LA 500マイル・自転車旅行記(その3)

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2日目の夜、テントでこれを書いている。ホテルでもモーテルでもなく、モンゴルのゲルの6畳版みたいなテントだ(写真参照)

電話もWi-Fiも使えない。大自然の小さな小屋。

時計を今朝まで戻すと、サンフランシスコでゴールデンゲートブリッジを根っこから眺めた後、せっかくなので橋の向こう岸まで渡って往復してみた。

橋は真ん中を車が走り、片側は歩行者、もう片側は自転車が走れる。小さな子供の親子連れもレンタルバイクでけっこう見かける。みんな楽しそうだ。ゆっくり走っても往復で30分くらい。

それから海沿いの道を地図で探しながら南へ南へ。1号線と思ってたけど、海岸沿いの道を見つけてはそっちを走る。夏なのに風が冷んやり気持ちいい。

途中、美しい湖のほとりを走っていたのだけど、どこか懐かしい風景。これをデジャブというのかと感心してたら、息子の玄(はるか)が「パパ、この道さっき も走ったよ」と確信を持って言う。地図に照らしたら、同じ湖の周りをぐるぐる回ってた。虎だったらバターになるところだった。(ちび黒サンボ参照)

それにしても、1号線は海沿いで平坦な道ばかりかと思っていたけど、それは車での記憶。自転車で漕いで走ると、なかなか立派に坂のデパートだ。下るのはあっという間で、上るのは何倍も時間を費やすから立ち漕ぎばかり。旅が終わる頃には彫刻のような身体になってそうだ。

それでも寄り道や回り道をした割には、午後3時半に今日の宿泊地候補だったハーフムーンベイに到着。

さあこの辺りで宿を取ろうと思ったら、息子がもう少し走ろうと言う。

うーん。確かに陽も高いし、もう30分か1時間も走ってから決めてもいいか。

これ、判断ミス。軽く考えてた。

ハーフムーンベイまではパラパラでも途切れることなく続いていた宿が、ピタリと無くなった。

Expediaもyelpも検索不可。

じわじわと落ちる陽。下がっていく気温。残りの水も食料もあとわずか。慌てた頃にはすでに8時間走りっ放し。

視界からは人工物が無くなり大自然の真ん中に取り残されたような気分。

結局ハーフムーンベイから、3時間30マイル(約50キロ)宿はなかった。

玄が平気な顔でついてくるのが救いだった。

小さい頃、ヤツが夜中によく高熱を出して、救急病院に駆け込んだ記憶が蘇った。勉強はしないし、部屋は汚いし、万事だらしないけど、思いやりのあるいいヤツには育ってくれたと思う。

途中ようやくたどり着いたペリカンポイント灯台のホステルも満室。

再び横風を受けながら黙々と走った。

そして、その30分後に見つけたのが、この宿。というか、このテント。

テントと言っても、ベッドはついていて、コンセントもある。窓も割れていないし、電球も点く。これで135ドルも取られるのはシャクだけど、他に選択肢がないからありがたいといえばありがたい。

お湯の出るシャワーを浴びて、地ビールを飲んで、温かいスープとリブを食べたら、心も身体もすっかり解凍された。

山小屋のレストランからテントに帰る夜道、満天の星空をしばらく立ち止まって眺めた。